【ミニ特集】ほっとかへんネットワーカー配置による体制強化 〜だれもが安心して暮らせる地域にむけて〜

 2年半にわたって取り組んだコロナ特例貸付。令和5年1月より償還が始まったものの、コロナ禍及び物価高騰で打撃を受けた社会経済情勢の回復は道半ばです。借受世帯をはじめとした生活困窮世帯では依然として安定した生活基盤を築くことが難しい中、生活再建に向けたフォローアップが社協をはじめとした関係機関によるネットワークでの取り組みが求められています。
 そこで、本会では「社協における生活困窮者支援体制強化事業」を今年度から立ち上げ、県内社協に新たに担当職員「ほっとかへんネットワーカー」を配置し、地域内のセーフティネットを充実することで、生活困窮者支援の体制強化に取り組んでいます。
 今号では、同事業の県内社協の取り組みを紹介するとともに、ネットワークによる生活困窮世帯への支援について考えます。

関係機関との協働による生活困窮者支援体制づくり

 「社協における生活困窮者支援体制強化事業」(以下、「体制強化事業」という)は、生活困窮者への支援を、社協だけで取り組むのではなく、図表1のとおり、県・市町行政、社会福祉法人・施設等と連携し、地域のネットワークで支援を強化していく事業です。

【図表1】体制強化事業の図

 本事業は、特例貸付の借受世帯などからの返済や生活に関する困りごとの相談や情報の提供をおこなう「基本事業」、生活状況の把握、当事者の多様な参加、活躍の機会の創出や場づくりなど、支援策の充実・開発を行うことを目的とした「選択事業」で構成されます。
 県内社協の今年度の実施予定は図表2のとおりです。多くの県内社協では、借受人世帯への生活状況のアンケートや実態調査の実施、多機関と協働した地域課題への対応を予定しています。

【図表2】令和5年度県内社協の主な取り組み

 ここで、生活課題の把握・分析を踏まえ、借受世帯の生活再建に向けた支援策の充実・開発を目指した県内社協の取り組みを紹介します。

事例① 宝塚市社協 

 市社協では、特例貸付により、これまでつながりのなかった世帯や新たな生活課題が顕在化されたことを受け、体制強化事業を活用し、借受世帯をはじめとした生活困窮世帯の生活状況把握と多機関協働による支援ネットワーク体制の構築を進めています。
 特例貸付借受世帯の状況確認のアンケートを実施したところ、コロナ禍が3年以上経過した今もなお安定した収入を得ることができず、世帯の家計が改善されないなか、物価高騰がさらに追い打ちをかけ返済が難しい状況が明らかになりました。今後は、これを参考に、生活困窮世帯へのさらなる支援策の充実・開発に取り組んでいきます。
 また、取り組みはじめている一例として、市社協が後方支援を行い、生きづらさを抱えた当事者が就労に至るまでの居場所と交流の機会をつくっている「スミレン’sワークいろり(以下、いろり)」では、企業から仕事を受注して、作業の機会を確保しています。ひきこもりがちな当事者が社会の一員であることを感じられる場になるように、当事者の力を生かした活動・参加の場として展開しています。特例貸付を利用した方の中には、いろりへの活動参加を通して自信をつけ一般就労につながった方もいます。

丁寧に作業をする「いろり」の場(宝塚市社協)

 今後、特例貸付利用者への支援に力を入れるとともに、社会福祉法人連絡協議会(以下、「ほっとかへんネット」)や民間企業等の多機関による連携強化を進めていきます。

事例② 太子町社協

 町社協ではコロナウイルスの感染拡大を契機に生活に困っている方からの相談が多く寄せられました。そこで、町役場、NPO法人、民生委員児童委員協議会と連携しフードバンク活動を実施。通年で食品や日用品の寄付を募り、必要とする方へ生活用品などを配布しています。

窓口で寄付の品を預かる様子(太子町社協)

 そして、今年度、地域での支えあい活動を社会福祉法人・施設が率先して進めていくことを目的に「ほっとかへんネット」の設立を呼びかけ、地域の高齢・障害・保育などの法人が一体となり、各法人の専門性を活かした住民向け相談会を計画しています。町社協に寄せられる相談は経済的な問題だけでなく、就労や子育てなど幅広く複合的な問題もあります。社会福祉法人が中心となった地域づくりの取り組みにより、多様な主体が参画し、連携することで、問題を解決に結び付ける資源を手厚くし、町民からの善意を広げていきながら、まずはできることから着実に取り組みを進めようとしています。

地域での包括的な支援体制づくりと地域力のアップにつなげる

 2つの事例から、複雑・多様化する今日の生活課題は、社協だけで取り組めるものではなく、多職種・他機関とのネットワークによる支援が大切ということがわかります。また、市社協の事例のように、一般企業などさまざまな機関と連携することで、地域のセーフティネットの充実、ひいては包括的な支援体制づくりにもつながります。
 紹介した事例だけでなく、県内社協では、丁寧な相談支援に取り組むとともに、相談から見えてきた課題を地域の課題として共有し、関係機関とともに解決に向けて取り組んでいます。これは、相談者が抱えている問題を深刻化させないこと、そして問題が発生するのを防ぐための取り組みにつながり、地域力アップにつながります(図表3参照)。

【図表3】地域力アップにつなげる仕組み

 本事業では「ほっとかへんネット」との連携を前面に打ち出しています。社会福祉法人・施設は、「ほっとかへんネット」の取り組みを通じ、これまで県内社協と連携してきました。生活困窮課題への取り組みは、両者のさらなる連携・協働が必要不可欠であることから、担当職員を配置し「ほっとかへんネットワーカー」としました。
 今後も、本事業の推進に向けて、県内社協職員との情報交換の場づくり、相談支援のスキルアップの研修のほか、県内の実践事例の収集・発信、経営協をはじめとした関係機関との連携による生活困窮者支援の強化に取り組んでいきます。

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