2025年9-10月号
このコーナーでは、地域福祉のキーパーソンや実践者・当事者らのエピソード・思いを紹介 していきます。
人とのつながりを大切にする
高校卒業後の進路に迷っていた頃、校内に掲示されたポスターがきっかけで作業療法士の道を選びました。当時は、全国に作業療法士が数百人程しかいないという時代でした。
さまざまな場で作業療法士として勤務しましたが、平成8年から勤めた精神科病院で、外来の患者さんが活動できる場として、院内に喫茶店をつくりました。その後、院外のことも知りたいと、患者さんと小規模作業所の見学に出掛けるようになりました。そこでは生き生きと働く障害者の姿があり、障害を持つ人が地域で暮らす大切さを痛感すると同時に、病院だけの活動に限界も感じました。
その後、平成17年にNPO法人を設立。翌年に駅近くに小さな物件を借りて、障害者が働き、地域の人が一息つける「Caféぽてと」をオープンしました。
ある日、自治会長さんがぽてとを訪ねて来られ「役員が高齢化し自治会運営が大変だが、地域を活性化したい。手伝って」と声を掛けられました。その言葉が嬉しく、自分たちの進む道が見えた瞬間だったかもしれません。
自治会と合同でお花見をしたり、毎週、自治会館でカフェを開くなど交流を深める中、地域には配食へのニーズが高いことがわかりました。そこで平成20年に一人暮らしの高齢者や子育て中のママなど、外出が困難で孤立しがちな方への宅配弁当を開始。障害のあるメンバーが作り、届けるお弁当を楽しみにする人は多く、頑固で知られるおじいさんも「ぽてとさんの弁当なら食べる」と楽しみにされていたり、箸袋に感謝のお返事を書いてくれるおばあさんがいたりと、お弁当を通じた交流は続いています。
振り返ると、色々な人と関わることで縁が広がり、人にも地域にも恵まれました。ぽてとから始まった私たちの活動も、グループホームの開設などが加わり大所帯になりました。当事者であるメンバーが企業に就労した事例、精神科病院を退院後、地域で自立して暮らしている事例など、活動の中でさまざまな物語が生まれました。同時に、当事者であるメンバーにできることがたくさんあることを教わる日々でした。
NPO法人設立から20年が経ち、今後の課題はバトンタッチです。若い職員がこれまでのつながりを大切にしつつ、自分たちらしい組織をつくることを願います。