【特集】地域の暮らしにこだわるほっとかへんネット ~県内各地の実践から見えること~

“ほっとけない”課題を現場に出向いて解決(稲美町)
法人が連携して「介護職員初任者研修」を開催(相生市)
住民と福祉施設職員が協議して地域生活課題への対応を考える
(小野市)
ロゴマーク「ほっとか騎士(ほっとかナイト)」

 「相談先が分からない」「経済的困窮のため今後の生活が心配」「子どもの発育に不安がある」「地域の過疎化が進んでいる」など地域生活課題はさまざまです。
 この特集では、誰もが暮らしやすい地域づくりに向けて活動する、社会福祉法人連絡協議会(以下、「ほっとかへんネット」)の取り組みとその意義をお伝えします。

「ほっとかへんネット」について

 「ほっとかへんネット」とは、市区町域でさまざまな種別の社会福祉法人が連携するネットワークのことです。ほっとかへんネットの目的は大きく2つあります。ひとつは社会福祉法人が児童・保育・高齢・障害などの種別を超えた連携により、制度の狭間にある困りごとを含めた多様で複雑な地域生活課題を受け止め、支援することです。住民の困りごとを見つけるアンテナを張り巡らすためにも、市区町域でネットワークをつくっています。もうひとつの目的は、誰もが暮らしやすい地域づくりです。地域住民をはじめ多様な主体の力を生かして「こうありたい」と思う地域づくりを支援します。
 この2つの目的でつくるネットワークのイメージが図1です。図のとおり、地域で困りごとを抱えた人を“ほっとかず”、相談支援や食料支援、子どもの学習支援、地域の居場所づくりなど、地域の特性・ニーズに応じた活動を社会福祉法人のネットワークにより実施しています。

【図1】

 ほっとかへんネット設置のきっかけは、兵庫県社会福祉法人経営者協議会(以下、「経営協」)が平成24年度に実施した社会福祉法人の地域貢献活動の実態調査と検討会議でした。検討の結果、地域における複合的課題や制度の狭間の課題に対しては、複数の法人が連携してネットワークで支える仕組みが必要だという結論に至り、市区町域で社会福祉法人の組織化を進めることになりました。
 平成26年度からは、県社協と経営協が協働してほっとかへんネットの設立支援を続けてきました。8年が経過した今、ほっとかへんネットは県内に広がり、令和5年8月末現在で42市区町(86%)に設立されています。
 近年、ほっとかへんネットの活動はさらに充実しています。例えば、災害時の相互支援の取り組みが挙げられます。大規模災害が多発する中、被災地への福祉専門職派遣を行う「災害支援派遣チーム(DWAT)を兵庫県では、ほっとかへんネット(=生活圏域)で整備し始めています。ほっとかへんネット単位の体制整備により、日頃から顔が見える関係性の中で、職員に自施設・園を含めた地域全体を守る意識が芽生えます。
 この意識と相互支援の関係性、支援スキルを携えて、災害時に近隣住民への支援から他市町・他県への支援に拡がることを目指しています。
 もうひとつ、近年充実してきた活動が生活困窮者への支援です。新型コロナウイルス感染症拡大の影響で実施された特例貸付の借受世帯など生活困窮世帯への支援として、県内社協に配置された「ほっとかへんネットワーカー」との連携が始まりつつあります。
 ここで、各ほっとかへんネットで取り組まれている活動事例を紹介します。

ほっとかへんネットワーカーの活動は2023年7-8月号で紹介しています。
https://hyogo-no-fukushi.t-reader.jp/2023/2023-jul-1/4778/

事例① 神戸市兵庫区

 ほっとかへんネット兵庫は平成28年に設立。区内26法人が連携し活動しています。設立当初から取り組む生活環境改善事業のほか、法人職員が主体的に活動する「プロジェクト」型による事業運営が特徴です。
 プロジェクトは「相談」と「災害支援」の大きく2つあります。各プロジェクトとも年間8回以上の会議を開催し、協議をベースに、福祉なんでも相談窓口「OIDEYO―H(おいでよひょうご)」や、本と食品等の物々交換窓口「CHANGE―H(チェンジひょうご)」、地域と共に行う防災・災害支援の「研修会・炊き出し合同訓練」などを企画。プロジェクトメンバーが主体となり、取り組んでいます。
 「地域における公益的な取組の必要性は分かるが、現場は人材不足で余裕がない」という声も一部にはあります。しかし兵庫区では “やらされ感”や“負担感”といった義務感による活動から、主体的な活動へ好循環が生み出されています。そのための工夫のひとつが、職員による「手上げ方式」です。プロジェクトチームメンバーの選出は、平等性を意識して全法人に振り分けがちですが、職員の自発性を重視して「手上げ方式」にこだわっています。
 ほっとかへんネット兵庫代表の金子良史氏は、「理事長などが社会福祉法人の使命や理念を職員に伝えることがポイント」と語ります。法人内にほっとかへんネットの意義を浸透させることは、職員を積極的に活動へ送り出す理解につながります。また、他の法人との交流は、あらためて自法人の理念や活動を見つめなおす機会になり、参加する職員のモチベーションの向上にもつながっています。
 さらに、この活動は「ゆるく」「楽しい」つながりだと言います。“あれはダメ”と制限をかけられる活動ではなく、種別や世代を超えて、法人職員同士がチームで知恵を出し合い、一緒に“ワクワク”する取り組みを実践していることが主体的な活動の好循環につながっています。

食品・日用品の配布会のチラシ
本と食糧の“物々交換”により、支援する・されるの関係を超えたつながりを目指す(チェンジひょうご)

事例② 南あわじ市

 ほっとかへんネット南あわじは、モデル地区として県内で最も早い平成26年に設立。市内11法人が参画して、会の方針を決める「推進会議」に加えて、実働体となる「実務担当者会議」で構成されています。モデル地区として模索しながら活動を続け、設立から3年後に動きだした実務担当者会議では「広報」「災害」「生活困窮者支援」「子ども支援」の4つのグループをつくり、活動の幅を広げています。
 広報のグループでは、活動をわかりやすく伝えるためのグッズ作成や情報発信について話し合っています。災害のグループでは、市の防災訓練への参加や非常食の備蓄を行い、令和5年度は地域住民と連携した活動も検討しています。生活困窮者支援のグループでは、中間就労の窓口開設や、物品支援ネットワークの構築に向けて取り組んでいます。子ども支援のグループでは、当初は高齢者施設を活用した子ども食堂を開設しました。その後、コロナ禍により施設への住民の受け入れが難しくなったことから、地域の拠点に場所を変えて子どもへの学習支援を開始しています。夏休みや冬休みに、高校生ボランティアの協力を得て運営しました。
 充実した活動が生まれてきた背景には、主体的に動く実務担当者会議の取り組みがあります。実務担当者会議で協議する際は難しく捉えるのではなく、職員が普段の暮らしの中で地域の課題と感じる項目を出し合い、その課題を少しずつ解決していけるよう、活動内容を考えています。実務担当者が主体となり活動を決定できるため、「自分たちで考えたことを実現できた」と、達成感や楽しさを感じられています。
 グループによる活動だけでなく、住民の困りごとや個別相談への対応にもネットワークが生きています。例えば、市社協が生活相談で関わる高齢女性への衣服のお裾分けを呼び掛けたところ、すぐにいくつかの施設から衣類が提供されました。
 ほっとかへんネット南あわじ代表の岡本和浩氏は、「ほっとかへんネットの活動が住民の暮らしを守るという社会福祉法人の本業と結び付くことを目指したい」と話します。実務担当者が考えて活動する今のスタイルを継続しつつ、医療法人など他の事業体との連携や地域住民との協働を進めることが今後の展望です。

普段関わりが少ない高齢者施設の職員と地域の子どもの交流

誰もが暮らしやすいまちづくりを目指して

2つの活動事例からは以下の3つが共通項目として見えてきます。

①地域のニーズを出し合う「協議の場」

 協議の場は、事例ではプロジェクトチームや実務担当者会議を指します。地域のニーズを実務担当者が率直に話し合う中で、互いの問題意識を共有し合うことが活動の原動力となります。こうした協議の場で出された地域ニーズを、福祉施設職員だけでなく地域住民・活動者や行政、学校、企業など、ニーズに応じて幅広い層が参画できる場で共有することも、地域づくりを進める上で大切です。

②主体的に楽しく活動

 実務担当者の問題意識や考えに基づいて活動するからこそ、楽しみながら取り組めて、次の展開にもつながる好循環を生み出しています。このプロセスにより、協議から協働の楽しさが育まれ、職員の主体的な関わりにつながっています。

③組織のトップによる目的の浸透

 ほっとかへんネットの目的は、社会福祉法人の本業である制度の狭間を含めた住民の困りごとを、“ほっとかない”で受け止めること、そして誰もが暮らしやすい地域づくりの一翼を担うことです。この目的を絶えず、組織のトップが法人内で職員に共有することで、活動の工夫や広がりが生まれています。
 ほっとかへんネットは設立期を経て、いよいよ次は活動発展の時期へとステージが移り変わってきました。活動を更に発展していく先にあるのが、誰もが暮らしやすい地域づくりです。これは言い換えれば、誰もが自分らしさを発揮でき、排除・孤立することなく生きられる地域共生社会です。ほっとかへんネットが、地域共生社会の大きな推進力となるよう、法人間連携の輪をさらに多様な主体へと広げていくことが期待されます。

兵庫県社会福祉法人連絡協議会代表者等連絡会
澤村安由里代表より
(社会福祉法人山路福祉会 山路園理事・施設長)

 兵庫県内の全ての市区町に「ほっとかへんネット」が設立されるのを目指し、設立を支援しています。設立された「ほっとかへんネット」がより有意義な活動ができるよう、研修会や情報交換会を開催していますが、活動の側面支援になるよう充実に努めていきます。「ほっとかへんネット」が地域包括ケアシステムの中の地域住民を支える、無くてはならないネットワークの一つに成長していけるかどうかは、これから10年の活動次第だと思います。一緒に頑張りましょう。

各市区町ほっとかへんネットの取り組みはこちらから
https://www.hyogo-wel.or.jp/public/hottokahennet.php

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