2024年9-10月号
コロナ禍では多くの世帯が生活困窮に陥り、大きな社会問題となりました。昨年5月の5類移行から1年以上経過しても、依然として経済的に厳しい状況にある人からの相談は後を絶ちません。
県内の社協では、令和5年度から「社協における生活困窮者支援体制強化事業」に取り組み、全市区町社協に「ほっとかへんネットワーカー」を配置しています。
この特集では、ほっとかへんネットワーカーの活動と今度の展望をお伝えします。
令和2年からのコロナ禍において、経済的影響を受けた世帯を支援するため実施された生活福祉資金の新型コロナ特例貸付では、県内で約20万件・805億円もの貸付が行われました。
この貸付では、世帯主が住民税非課税であるなどの要件を満たした場合は償還が免除されることとなっており、本年7月末までに約8万7千件が償還を免除されました。これほどの件数が住民税非課税等を理由に償還免除されるという結果は、多くの世帯で経済的な困窮が今も続くことの表れとも言えます。
市区町社協では、償還免除をはじめ、特例貸付の償還に関するさまざまな相談が日々寄せられています。免除に該当しない世帯でも「不安定な就業形態で収入が安定しない」「療養中で就労ができない」など、生活の困りごとを訴える声も多く、昨今の物価高騰も影響し、改めて生活福祉資金を借りたいという相談も増えており、コロナ禍をきっかけとした経済的ダメージから抜け出せない人が多いことがうかがえます。
コロナ特例貸付で見えてきた経済的な困窮状態にある世帯を支援するため、借受人世帯をはじめとする生活困窮者への継続的なフォローアップ支援ができる体制づくりが求められています。
県社協では、令和5年度から「社協における生活困窮者支援体制強化(ほっとかへんネットワーカー配置)事業」を開始しました。この事業は、図表1にあるように、借受世帯からの償還や償還免除、生活課題の解消等に関する相談支援を行う「基本事業」と、借受世帯への支援の充実を図ることで同じような課題を抱える生活困窮世帯への支援の充実も目指す「選択事業」を市区町社協で実施し、その取り組みを進める「ほっとかへんネットワーカー」を配置するものです。
現在、すべての市区町社協にほっとかへんネットワーカーが配置され、生活困窮世帯への相談対応などの個別支援と同時に、関係機関との連携・協働のもと、社会的孤立や排除を生まない地域づくりを進めることを目指して活動しています。
ほっとかへんネットワーカーの具体的な活動には、次のようなものがあります。
アンケート調査をはじめとする借受世帯の困りごとや生活実態を把握するための取り組みは、9割近い社協で行われています。
また、関係機関が実施する生活・法律相談会などにほっとかへんネットワーカーも同席するなど、さまざまな機会を用いて困窮状態にある人たちの生活実態を把握するとともに、必要に応じて関係機関とも共有を図り、支援にあたっています。
ほっとかへんネットワーカーは償還や免除に関する手続きの案内や書類作成の支援にとどまらず、食糧支援などを通じて、借受世帯への継続的なアプローチを図り、関係づくりに取り組んでいます。
継続的な関係をつくることのできた借受世帯から「困ったときの相談場所」として認知された社協では、子どもの進学費用に関する母子世帯からの相談を、生活福祉資金(教育支援資金)の貸付に結びつけるなどの支援にもつながっています。
生活困窮世帯への大切な支援である食糧支援には、コープこうべやフードバンクと協定を結ぶなど、コロナ禍を経てほとんどの社協で取り組まれています。また地元の企業や地域の商店の協力も広がっています。
自立相談支援機関や福祉事務所、ハローワークなどの関係機関によるネットワークにより、地域の居場所づくりや、就労先の確保・紹介に取り組む社協もあります。
また外国人世帯向けに、生活支援に関する広報を外国語で発行したり、市町と協働で日本語教室を開催するなど、関係機関と連携した多様な活動の開発にも、ほっとかへんネットワーカーは取り組んでいます。
さまざまな支援の中から、近所づきあいや地域との関係性が希薄で、孤立しがちな借受世帯が多くあることが見えてきました。
ほっとかへんネットワーカーは、民生委員・児童委員や福祉委員などと話し合う場を設け、借受世帯等の生活困窮世帯の実態を共有し、見守り活動などにつなげています。
孤立しがちな借受世帯にボランティア活動や地域の居場所を紹介し、社会とのつながりや自己肯定感の回復を目指す社協や、「ほっとかへんネット(社会福祉法人連絡協議会)」と協働し、施設が所有する資源を活用した中間就労の場の提供に取り組む社協もあります。
加東市では、製造業で働く外国人が多く生活し、その割合は近隣市町と比べても高くなっています。コロナ禍では、稼働の止まった工場等で働く多くの外国人からコロナ特例貸付の相談が寄せられました。
加東市社協のほっとかへんネットワーカーは、特例貸付を利用した外国人などから寄せられる相談で、地域や自国のコミュニティに馴染めない人がいること、出産・子育への不安が顕著であることに気づきました。このような不安を抱える外国人に寄り添う取り組みの必要性を感じたことから、外国にルーツを持つパパ・ママのための子育て交流会「PIYO CAFÉ(ぴよカフェ)」を今年度から始めました。
交流会は、外国人世帯の孤立を防ぐとともに、安心して子育てをするために必要な知識の習得を目的に行われています。
7月に開催した1回目の交流会には、主にベトナム国籍の6世帯9名が参加しました。ある参加者からの「子どもが給食でカレーやハンバーグを食べ、家でも作ってと言う。でも調理方法が分からない」という話をきっかけに、次の交流会では子どもたちも交えた調理実習をすることとなりました。
これからのPIYO CAFÉの活動についてほっとかへんネットワーカーは、「交流会が、外国人の不安を和らげる場所になれば」「地域にはSOSを出せていない外国人がいる。その人たちとつながるきっかけを作りたい」と話します。
加東市社協では、今後もほっとかへんネットワーカーがキーパーソンとなり、地域と協働しながら外国人を支える活動が続けられます。この場所が孤立しがちな外国人が集い、つながりを育むと同時に、自らが主体的に活動できる拠点となることが期待されます。
ここまで紹介した内容も踏まえ、ほっとかへんネットワーカーだけでなく、これから社協に期待されることをまとめます。
生活困窮にある世帯は、複数の課題を抱えたり、コロナ禍以前から長年にわたり困難を抱えているケースも少なくありません。
このようなケースに対し、多角的な視点から包括的な支援を行うためには、社協内の複数の部署による連携を欠かすことはできません。ほっとかへんネットワーカーにはこの連携のキーパーソンとしても期待が寄せられます。
借受世帯の相談対応を進めながら、地域での支え合いの広がりをつくっていくなど、社協内で個別支援・地域支援の双方と関わりながら、組織内連携の起点となることも期待されます。
生活困窮者の自立や社会参加を支えるためには、社協内だけではなく、支援に携わる関係者が目的を共有し、手立てを一緒に考える多機関連携が重要です。異なる分野の人が集まり、互いの得意分野を生かした相互補完的な連携を深める中、複雑な課題の解決に向けて大きな力が発揮できます。
この多機関連携において、社協が困窮者への個別支援とともに、関係機関と連携した居場所づくりなどに積極的に取り組むことが期待されます。
特例貸付が実施された当時は、何よりも迅速な貸付が求められ、相談者へのアセスメントが不十分なままに貸付をせざるを得なかったことは、社協職員にとってもどかしい経験でした。
償還や免除の手続きを契機として、多くの相談者が社協を訪れます。この方々がどのような思いで、何を求めているのか理解し、適切な支援に結びつけることができるよう、改めてその相談支援スキルを向上させることが求められます。
加東市の事例にもあるように、相談支援を丁寧に行うと同時に、困難な状態にある人の居場所づくりを地域で進める活動は、図表2にもあるような、地域力を高める取り組みと言えます。
また、社協としては、民生委員・児童委員や福祉関係者などと協働しながら、生活困窮の課題を「我が事」として地域に理解をしてもらう働きかけも必要です。SOSを発信できない人や孤立して必要な支援が届いていない世帯への意識が、少しでも地域の中で高まれば、困窮者世帯への気づきとなり、誰も取り残されない包括的な支援体制づくりにもつながります。