【特集】誰も取り残されない地域づくり 〜県地域福祉支援計画の推進〜

コロナ禍で生まれた新しいつながり方「プランターファーム見守りプロジェクト」(淡路市)
協働から継続的な連携へ「社会福祉×多文化共生連携セミナー」(三田市)
地域づくりを話し合う場にケアマネジャーなども参加して暮らしぶりを知る(養父市)
みんなで楽しく「あったらいいなのばんごはん」(稲美町)

 兵庫県では、令和6~10年度の地域福祉の基本方針を定め、福祉の各分野共通で取り組む事項を示した「第5期兵庫県地域福祉支援計画(以下、「支援計画」)」が策定されました。この支援計画には、各行政がどのように地域福祉を推進するかが記され、同時に私たち県民が目指す福祉のまちづくりに向けたメッセージも含まれます。
 今回の特集では、つながり・支え合いのある地域社会づくりを見据え策定された支援計画について確認します。

全県的な地域福祉の向上を目指す支援計画

 各市町では、行政が地域福祉の基盤を整備し、施策を実行するために「地域福祉計画」を策定しています。一方、各市町の計画の達成に資するため、県が広域的な見地から目指すべき地域福祉の方針や推進のガイドラインを示すのが、今回取り上げる「地域福祉支援計画」です。
 近年、地域共生社会の実現に向け、行政には住民が主体的に取り組む地域福祉活動をバックアップすることが求められてきました。平成30年の社会福祉法改正でも、市町の地域福祉計画は分野別の各計画の上位計画とされ、包括的な支援体制の整備も行政の努力義務になりました。地域福祉に果たす行政の役割がより重要になる中で策定された今回の支援計画について、以下、事例も交えてポイントを確認します。

ポイント1 地域福祉計画は住民への責任表明

 高齢者、障害者、児童、生活困窮などの分野別福祉では、介護保険制度や障害者の就労支援など、社会情勢の変化に伴い制度やサービスが充実しました。その反面、福祉サービスの利用だけでは、地域での暮らしは支えられず、孤立や社会的排除などの生きづらさを抱える人もいます。
 この人たちが地域で自分らしく暮らすため、例えば、ふれあいサロンや子ども食堂などの居場所づくり、ゴミ出しや電球交換など日常の手助け、セルフヘルプグループなど当事者が集う場づくりなど、地域でのインフォーマルな活動が重要になります。市町の地域福祉計画は、これら民間の自発的な取り組みが生まれる基盤整備を進め、制度の狭間や複合多問題に対応する責任を表明するものです。
 この観点から、今回の支援計画には、市町が策定する地域福祉計画の“セルフチェックシート”を設けています。シートにより、全市町が地域福祉計画をPDCAサイクルで策定・実施・評価し、市町の計画の実効性を高めることを求めた点が特徴になっています。

ポイント2 支援計画が目指す地域社会の姿を捉える

 支援計画では、目標(目指す地域社会の姿)とそれを達成する上での取り組みの視点が整理されています。上の囲みで示すように、支援計画では「つながり・支え合いのある地域共生社会ひょうご~“誰も取り残されない”地域づくり~」が大目標とされていますが、その前段「目指す地域社会の姿」のいくつかを見てみます。
 冒頭の「年齢、性別、障害の有無、言語、文化等の違いに関わりなく」は、福祉制度に人を合わせるのではなく各分野の連携で対応すること、さらにはマイノリティの権利擁護、障害者への合理的配慮などが地域社会にとって大切になることを示しています。次の「地域社会の一員として包摂」とは、誰もが安心できる場が地域にあり、存在自体が認められること。さらには自分らしく役割が発揮できる地域づくりが重要になることを表しています。また、「多様な主体が我が事として参画」は、福祉関係者に加え、教育、住宅、地域振興、企業など、地域福祉の推進にさまざまな団体の協働が重要であることを示しています。
 そして「誰も取り残されず世代や分野を超えてつながり・支え合う」は、SDGsの理念を踏まえつつ、例えば、8050問題やダブルケアなど複合多問題への対応を専門職が分野を超えて進める仕組みづくり、障害者が農業に従事し活躍する農福連携、生活困窮者の中間的就労を通じて地場産業を支える活動など、分野の違いのみならず福祉の枠組みさえも超え、地域に支え・支えられる循環を生み出すことが目指されています。
 この目指すべき地域社会の姿に向けた取り組みとして、ソーシャルインクルージョンやコミュニティづくりなど3つの視点が示されています。その参考となる事例を紹介します。

実践事例 誰もが人とつながり、居場所と役割があるまちづくりを目指して ボランティアはなぞの(明石市)

 ボランティアはなぞの(以下、「はなぞの」)は、高齢者の健康教室、一人暮らし高齢者・障害者へのあったか訪問、有償の生活支援など、属性を問わない活動を進める地域住民のボランティアグループです。はなぞのが拠点にする「西明石サポーティングファミリー」は、市の委託「地域支え合いの家」の一つとして常設され、介護や生活に悩む人の相談所にもなっています。
 ある日の日中、健康教室の準備をしていると、見慣れない20~30代の男性がふらっと受付に来ました。みんな最初は戸惑いましたが、ボランティアの一人が、以前、男性の母親(故人)がこの拠点でボランティアをしたことがあることを思い出し、この日は様子を見ることにしました。一月後、再度男性がやってきました。ボランティアから「どんな生活をしているのか気になる」との声もあり、お茶を出して話しかけると、少し受け答えがおぼつかないようでした。
 何かできないかと考えたボランティアたちは、男性の自宅を知る住民を頼りに、在宅介護支援センターの専門職と自宅を訪問。同居する男性の父親から「自分にもしものことがあったらこの子が心配」という切実な胸の内を聴き、頼れる居場所や人とつながれる方法を一緒に考えました。その後、男性は就労継続支援事業所に通いつつ拠点にも馴染み、他のボランティアとともにスクールガードとして小学生の見守りを続けています。
 このような自然な支え合いが生まれた要因は大きくは二つあります。一つは、「ボランティアの主体性を育む仕組みづくり」です。ボランティアを防災や福祉などのテーマに分け、各々役割を意識したリーダーを設けて、地域を愛する住民自身がチームで課題に向き合う意識を高めてきました。
 もう一つは、「専門職と協働したボランティアの地域福祉の意識づくり」です。高齢者、障害者、子ども・子育て中の親など、どのような状況でも地域とつながれる拠点にできるか不安があったため、はなぞのでは開設2年前から毎月、生活者目線で学びたいことを専門職に投げかけともに考える「命塾」を開催し、暮らしの中での気づきの力を育んでいます。
 住民の地域福祉は一朝一夕ではできず、住民だけで成し得るものでもありません。はなぞのでは、住民と専門職が一緒に活動することで、新たな出会いや支え・支えられる関係を超えた“新しい物語”が生まれ続けます。

ポイント3 重層的な圏域設定と住民・専門職の協働の場づくり

 今回の支援計画では、市町全域に加え、福祉サービスを整備する圏域、住民に身近な日常生活の圏域など、地域福祉計画に重層的な圏域を設計することを強く推奨しています。さらに、住民や専門職、多様な地域福祉の推進主体が、自らが関与すべき場を認識できるよう、圏域ごとにさまざまな主体が参画・協働するネットワークを構築することも求めています(図1参照)。
 その中でも、暮らしの場に近いエリアでの住民と専門職の協働は、先の事例にもあったように重要なポイントです。支援計画では、重層的な圏域の設定と同時に、暮らしに身近なエリアで住民と専門職が地域生活課題や活動課題を話し合い、協働で解決するネットワークをつくる重要性が強調されています。

【図1】 重層的な圏域ごとの構築を目指す「地域福祉ネットワーク」
(出典:兵庫県社協「『地域共生社会』の実現に向けた社協活動指針」平成31年3月)

ポイント4 公民連携・協働の重要性と協議体としての社協の役割

 今日では、社協以外にもNPO法人をはじめ地域福祉の推進主体が多様に存在し、地域福祉における行政の役割も強まっています。社協の位置づけが相対的に低下してもおかしくないですが、支援計画では、社協を対等のパートナーとして認識すること、地域福祉施策を社協とともに企画・検討すること、社協が住民と積み重ねた地域福祉実践を生かすこと、必要な組織体制と安定的な予算措置をすることなど社協への言及があります。
 社協は、各種事業の実施主体として認識されがちですが、それは社協の一側面です。その本質は地域住民を基盤とする「協議体」であり、住民の主体性を原動力に、誰もが地域で自分らしく暮らせる福祉コミュニティづくりを使命とする組織です。この住民協議体としてのありようこそ支援計画が社協に期待する部分であり、社協には公民協働の「民」の代表として、地域福祉を進める多様な主体との連絡調整が求められます。これを背景に、市町社協では、民間独自の先駆的・開発的な活動を進める行動計画であり、行政への提言機能も有する「地域福祉推進計画」を、地域住民、関係機関・団体と協議し策定しています。
 行政が策定する地域福祉計画と、社協の地域福祉推進計画が相乗効果を発揮し、各主体が協働した地域福祉の推進が望まれます。

県内全市町に期待されること ~地域の将来の姿を見据えて~

 支援計画について、4つのポイントで整理・紹介をしました。今回の支援計画には、県がさまざまな関係団体と協働しながら施策を展開し、市町での包括的な支援体制づくり、安心して暮らせる地域づくりとそれを担う人づくり、そして各市町域の計画的な地域福祉の取り組みを進めることが明記されています。
 支援計画をあらためて確認しながら、県内全市町が地域の将来をイメージし、行政、社協、地域住民、福祉関係者、そしてまちづくりを進める多様な人たちの参画で、地域の福祉をどのように進めるかを協議することが私たちには求められます。そしてこの協議と協働の先に、豊かなつながりと支え合いが地域に生まれ、誰も取り残されない地域づくりが進むことが期待されています。

第5期地域福祉支援計画は、兵庫県庁ホームページでダウンロードできます
◆ 支援計画の概要
◆ 支援計画の全文
◆ 市町セルフチェックシート

兵庫県庁ホームページはこちら
https://web.pref.hyogo.lg.jp/kf03/hw16_000000028.html

各市町が作成する地域福祉計画の概要や策定状況について、厚労省のホームページのサイトにも情報が掲載されています
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/c-fukushi/index.html

2024年7-8月号TOP