2022年9-10月号
“笑顔”と“共生のまちづくり”につながる実践をレポート
海外から留学や技能実習、また労働者として来日している外国人の中には、生活基盤が弱く、さまざまな困難を抱える方がいます。今回は、人材育成を通じた国際協力を長年続けるPHD 協会が始めた、居住支援の活動を紹介します。
PHDはPeace・Health・Human Developmentの頭文字で、「平和と健康を担う人づくり」を意味します
PHD協会は、ネパールで医療支援活動をしていた岩村昇医師により昭和56年に設立され、アジア・南太平洋地域から研修生を招き、母国でリーダーになる人材を育ててきました。
長年の活動が縁で、平成30年に難民受入制度で神戸に来ていた少数民族「ロヒンギャ」※1の方の支援に携わった際に、外国人であることを理由に住まいを確保しづらい現実に直面しました※2。
そこで、借りられる家が無いならば作ろうと、住まいを提供して自立を支える事業を構想。折しもコロナ禍で仕事を失い困窮する外国人の課題が顕在化した令和2年10月、シェアハウス「みんなのいえ」を開設しました。
みんなのいえは、コロナ禍による社会経済への影響が続く時期と、立ち上げの時期が重なったことから、想定していた難民に加えて、コロナ禍で困窮する外国人も積極的に受け入れました。来日後、搾取や過酷な労働で病気になり行き場をなくした人など、厳しい立場にある人を支えています。
みんなのいえは、自立に向けた一時的な仮の住まいですが、「仮の住まいはあっても、仮の人生は無い」と、さまざまな関係者と連携して支援を展開しています。例えば食料支援では、コープこうべ、フードバンクや企業などと、就労支援では、自ら職業紹介事業の許可を得て、地元企業と連携して支援を進めています。さらに日本語の学習支援もボランティアの協力で実施しています。丁寧に寄り添った結果、今ではみんなのいえを退去し、近隣住民のやさしさに触れて明るさを取り戻し、地域に定住する人もいます。直近では、避難民としてウクライナから母子で来日した人への仕事探しをサポートするなど、暮らしの困りごとに柔軟に対応しています。
同協会の坂西卓郎事務局長が、「外国人も含めて気軽に集まれるカフェのような場が作れたら」と話すように、多様な文化が共生する地域づくりに向けた次の活動を、福祉や労働など幅広い関係者と共に今後も模索していきます。
※1仏教国ミャンマーにおける、イスラム系の少数民族
※2法務省の調査(平成28年度・外国人住民調査報告書)では、「外国人であること」を理由に入居を断られた外国人の割合は39・3%に上るとされています
「みんなのいえ」は、一時的な住まいであると同時に、多文化共生につながる外国人支援の実践と発信を進める地域の拠点です。今後、国際協力・交流を主とする団体と、福祉、労働、教育などの協働が各地で進むことが期待されます。