2025年11-12月号
このコーナーでは、地域福祉のキーパーソンや実践者・当事者らのエピソード・思いを紹介していきます。

誠を尽くす
1歳半でポリオ(※)を発症し、左足に麻痺が残りました。私は障害が比較的軽度だったので、普通校に通いました。教員免許を取得し大学を卒業した後、ろう学校に2年間勤め、結婚を機に退職しました。
子育てが一段落ついた39歳のある日、障害者テニス教室で、生まれて初めて、ポリオの後遺症をもつ人と出会いました。「ハイヒールを履いてみたかった」と言う私に、彼女が明るく返した「ほんまやね」の一言。共感してもらえた喜びは、経験したことのないものでした。 翌年、ポリオの人たちとつながりたいと、「ポリオの女性の会」を立ち上げました。2人で始めた会は、増えていく会員の皆さんに支えられて30周年。当事者同士で言いたいことを言える、分かち合える安心感はセルフヘルプグループの大きな効用で、私たち一人一人の心を解きほぐしてくれました。
※ポリオ:ポリオウイルスによる感染症で、5歳以下の乳幼児がかかることが多く「脊髄性小児麻痺」とも呼ばれる。手足や呼吸器の筋肉等に生じた麻痺が、永続的に残る場合もある。昭和36年に始まった全国一斉ワクチン投与で、患者数は激減した
会の発足後、「ポストポリオ症候群」を知りました。ポストポリオは、加齢やオーバーワークにより、健康だった手足に痛みや機能低下が生じる二次障害です。健常者に伍して生きるために、人一倍頑張るしかなかった。その頑張りが、新たな症状の原因になるなんて。
ポストポリオの予防はただ一つ、無理をしないこと。これを伝えるため、私たちの活動はポストポリオの啓発が第一となりました。各地の会とともに「全国ポリオ会連絡会」を設立し、ポストポリオによる障害厚生年金の認定を国に働きかけ、平成18年に実現しました。
どうしてポリオになったのか。理不尽な思いは拭えず、障害の受容はたやすくありませんが、それなりに適応して生きてきたと思います。そして、自分と同じポリオの人が少しでも楽に、幸せに生きられるようにと強く願い、今日まで活動してきました。
現在、ポリオは世界中でほぼ根絶され、会員の平均年齢も73歳。ポリオを経験した人がいなくなれば、ポリオ罹患者が存在したという歴史さえ風化してしまう。ふとそう気がつき、私たちの生きた軌跡を残そうと呼びかけました。
全国から寄せられた207名分のライフヒストリーを2年がかりで編集し、書籍「ポリオの軌跡」として今年3月に発行。私たちが経験した不利益や差別、もろもろの困難、それでもめげずに生きてきた記録です。 障害をもった者が強く生き抜いてきた覚悟と心意気を、後世に残せたと思っています。

書籍「ポリオの軌跡」の購入を希望される方は、TEL:078-792-7471(柴田多恵さん)までお問い合わせください。
1冊分・送料込1,000円
