2025年9-10月号
福祉現場は、働く人がいなければ成り立ちません。人口減少社会の今、福祉現場では子育て世代や高齢者、外国人などさまざまな立場の人が活躍できる職場環境づくりが進んでいます。
特集では、県内の福祉現場での多様な働き方を実現する取り組みを紹介します。
2040年には、全国で1,100万人の労働力が不足するとされています。政府は女性や高齢者の労働参加を進めてきましたが、令和元年(2019年)を境に労働力人口は減少に転じました。全産業で労働力が不足する中、AIの活用や機械化が進む分野もありますが、対人援助が基本の福祉分野では機械化や自動化などにも限りがあり、他の産業以上に人材の確保が課題になっています。
また、県内の人口に関する2035年の推計では、人口減少が進み、さらに将来に向けて不安材料があることがわかります。このような傾向の中、限られた人口で社会を持続させる必要性も読み取れます。【図表1】
【図表1】兵庫県内市町の2035年の姿
①人口が2割以上減少する市町数 22/41市町(約54%)
②生産年齢人口が2割以上減少する市町数 32/41市町(約78%)
③0~14歳の子どもが2割以上減少する市町数 38/41市町(約93%)
働き手となる人口が減る一方で、働く側の仕事へのニーズは多様化・個別化しています。共働き世帯や就労意欲のある高齢者の増加、Z世代と呼ばれる若者の仕事観の変化など、仕事に求める条件もさまざまです。
これらライフスタイルや価値観の変化に伴い、福祉現場には、雇用形態にとらわれず柔軟な働き方が選択でき、働く一人一人が力を発揮できる環境づくりが求められます。
福祉の仕事と聞くと、「体力的に大変そう」「福祉の専門的な資格がないとできないのでは」など、いろいろな反応が返ってきます。もちろん保育士や介護福祉士などの専門資格を用いて行う業務もありますが、福祉分野での就労経験や資格がない人、主婦や定年退職後の高齢者、障害をもつ方なども働いています。
福祉現場では、働きやすい環境づくりが進んできており、女性の活躍推進に関する取り組みが優良な事業所を認定する厚生労働省の「えるぼし認定」を受ける社会福祉法人もあります。
また、職員の仕事と子育ての両立、ワークライフバランスの推進に取り組むたくさんの社会福祉法人などが、厚生労働省の「くるみん認定企業」、県勤労福祉協会の「ひょうご仕事と生活の調和推進認定」に認定・登録されています。さらに図表2にあるように、福祉現場では人手の不足感はあるものの、離職率は全産業平均より低く、ICTの活用も進んできている実態も明らかになっています。
【図表2】データで分かる福祉現場の現状
①人手不足 64.7%
※「おおいに不足」「不足」「やや不足」と回答した事業所の合計
②離職率 13.1%
※全産業平均 15.4%
③ICT活用率 約8割
出典:「介護労働実態調査(令和5年/厚生労働省)」
このように、福祉現場では多様な人材が活躍できる環境づくりが行われています。ここからは、県内2つの福祉現場での取り組みを紹介します。
社会福祉法人かすぎ野
(西脇市:認定こども園・放課後デイサービスなどを運営)
「かすぎ野」が運営する認定こども園では、国の定める配置基準よりも職員数が多く配置され、子どもたちが園に滞在する9時~16時の時間帯にパートタイム職員を増やしています。これにより、子どもに手厚く関わる時間を確保でき、記録や連絡調整の仕事もしやすくしています。また、園内にはライブカメラが設置され、保育の様子を保護者が確認でき、事故など不測の事態の対応にも生かされます。
かすぎ野には子育て支援員の研修を受けて、パートタイマーとして保育士を補助する職員もいて、定年の70歳まで働く職員もいます。
ほかにも働きやすい環境づくりとしては、正規職員に加えパート職員にも育児休暇、介護休暇、時短勤務制度があり実際に活用されています。また、こども園では休日に子どもを受け入れる休日保育を行っていますが、職員の休暇は週休2日制とし、月に数回は土日の休暇が取得できます。有給休暇も「取得して当たり前」の雰囲気がつくられ、休暇取得率も比較的高いのが特徴です。
子育て支援員とは
子育て支援分野での就労に必要な知識と技術を身につけるため、自治体が実施する研修を修了し、認定を受けた人を指します。福祉現場では、保育教諭などの業務をサポートし、玩具の消毒や片付け、清掃など補助的な業務を担います。
社会福祉法人山路福祉会
(丹波市:特別養護老人ホーム・デイサービスなどを運営)
「山路福祉会」では、週40時間を基本として、職員自身が1回の勤務時間を12時間勤務か8時間かを選べる「フレックス制度」を設け、毎月の勤務シフトに反映しています。これにより、週休3日勤務も可能になり、職員からは好評です。また、令和6年度からは時短正規職員制度も導入し、1日7時間勤務・週35時間で勤務することもでき、夜勤や残業が難しい人や子育てがひと段落した人など、ライフスタイルに応じて働き方を選べるようにしています。
加えて、県が実施する「ケア・アシスタント」を活用し、7名が勤務しています。アシスタントには80代の職員もいて、手先の器用さを生かして車いすの点検、掃除や洗濯などの場面で活躍しています。さらに、外国人の雇用にも力を入れており、住まいや施設までの通勤手段を確保したほか、休日に買い物を希望する際には、利用者の買い物ツアーに同乗してもらい、遠くへの買い物の移動で便宜を図るなどして生活面も含め安心して働ける環境を整えています。
これらのほか、職員を労う福利厚生の一環として、個々の職員に施設長のメッセージを添えた誕生日ギフトを贈るなどの工夫も取り入れています。
ケア・アシスタントとは
県に登録された介護施設や事業所で試用的に雇用され、介護の周辺業務や身体介護の補助に従事する人を指します。多くの職場では、直接利用者の体に触れたり専門知識を要する業務を除く、配膳や清掃、洗濯や話し相手などを担います。
県福祉部高齢政策課
https://web.pref.hyogo.lg.jp/kf05/careassistant.html
先に紹介した事例は、働く人を支える仕組みとして、短時間勤務やシフトの工夫など、働きやすい環境づくりに向けた取り組みのほんの一例です。
今回の事例のほかにも、県内では介護ロボットを導入して職員の身体的負担の軽減を図ったり、音声入力で支援記録を作成して事務を効率化するなど、働く職員の利便性を高める動きも広がっています。
福祉分野で初めて就労した人たちからも、「子育て中の自分に合った働き方が選べた」「定年退職後に、やりがいのある仕事に出会えた」「補助的な業務から始めたが、今後は資格の取得に挑戦したい」など、安心して長く働けるといった好意的な声が多く聞こえてきます。
このように、福祉分野では働きやすく、職員の満足度を高める環境づくりや、子育て世代や高齢者、外国人などさまざまな人が活躍している現状が知られるよう、各々の福祉現場からの積極的なPRも望まれます。これらを通じて、多くの人から福祉の仕事への関心が寄せられればと思います。
福祉現場での人材確保や定着・働きやすい職場づくりに向けて、本会ではさまざまな取り組みを行っています。
福祉人材センターでは、福祉分野の無料職業紹介だけでなく、実際の福祉現場を見学してイメージを広げてもらう職場見学バスツアーや、福祉の分野で働きたい人と福祉現場とのマッチングの機会として、「就職説明会」を県内7ブロックで開催しています。
ほかにも実際に働いている方へのインタビューを行い、福祉人材センターのInstagramやYouTubeで公開するなど、福祉の仕事のPRに取り組んでいます。
また、ひょうご外国人介護実習支援センターでは、技能実習生や特定技能外国人の受け入れを進める福祉施設をサポートしています。海外での面接・採用の支援、技能実習生を受け入れた施設への訪問指導や情報提供を行います。また、技能実習生の定着に向けて生活相談や日本語研修、日本文化を学ぶセミナーなども開催しています。
本会では、今後も市町社協や社会福祉法人などの県内各地の関係者、ハローワークなどの労働機関とも連携を密にとり、福祉の仕事に興味・関心を持つ方を増やすための情報発信や就職支援に取り組んでいきます。
福祉人材センターホームページ
https://hyogo-fukushijob.com/
福祉人材センターInstagram
https://www.instagram.com/fukushijinzai_hyogo?igsh=MXMzZ2o0cWxrc3Vueg==
ひょうご外国人介護実習支援センターホームページ
https://hyogo-ktsc.org/