2026年1-2月号




介護の社会化を図った介護保険制度に、“社会参加による介護予防”や“ニーズ対応を通じた地域づくり”の要素が盛り込まれたのは今から約10年前。団塊の世代が75歳以上となる2025年に向けて、社会参加やつながりの重要性が注目され、住民主体を軸に地域づくりが進められてきました。
そして、2040年頃には団塊ジュニア世代を含む高齢者数がピークに達すると予測されています。
特集では、地域づくりに関する制度改正に盛り込まれた要素や県内の実践をもとに考えます。
2025年が過ぎ、全国で65歳以上の高齢者が3600万人を超えました。県内でも約160万人に達し、特に75歳以上の後期高齢者が急増する局面を迎えています。また、国は2040年頃の見通しとして、高齢者数が全国で約3950万人とピークを迎え、85歳以上の要介護や認知症の人、ひとり暮らしのいっそうの増加により、平均的な高齢者像では語れない多様性と格差の時代になると予想しています。
地域を見渡すと、地域を基盤に活動するさまざまな組織の担い手不足をはじめ、支え合い活動の継続性への懸念、住民同士の関係性・つながりの希薄化、社会的孤立などが顕在化してきています。
「高齢者の急増」から「現役世代の急減」を迎える中、将来に向けてどのような地域をつくり、受け継いでいくのか。これからの地域づくりの要点を確認していきます。
介護保険制度では、2015年(平成27年)の改正において地域づくりの要素を含めて地域支援事業を再編し、生活支援体制整備事業が創設されました。兵庫県では2019年(令和元年)に「兵庫県生活支援体制整備の手引き」を発行し、社会的孤立を生まない、豊かで多様なつながりのある地域づくりを目指して、住民主体で地域づくりを進めること、高齢者を含む多世代の人々と取り組みを進めること、さまざまな分野・多様な主体と連携することなど、地域共生社会につながる地域づくりの要点を発信してきました。
県内各地では、住民同士で地域の将来について話し合い、見守りや支え合い活動(簡単な生活支援を含む)など住民の主体的な活動が着実に展開されてきました。その結果、今日では高齢者をはじめとする地域の人々の暮らしを支える大切な生活基盤の一つとなっています。
しかしながら、全国的には、施策の縦割りから対象を高齢者に矮小化するような誤解が生じていたり、生活支援サービスの担い手として住民を資源とみなす考え方がみられたりしていました。また、買い物や移動・交通、ゴミ捨て等の福祉以外の分野との連携が必要な対応が進みにくい状況が見受けられました。
このような中、2024年(令和6年)8月、国は2040年を見据えて、地域共生社会の実現を目指し、地域支援事業実施要綱の改正を行いました。主なポイントは次のとおりです。
地域に暮らす高齢者の立場に立って考え、地域の人と資源がつながり合うことで地域共生社会の実現や地域の活性化を図ることとしており、これまで兵庫県内で取り組んできた住民主体の地域づくりを制度面から後押しする内容となりました。
今般の制度改正を踏まえつつ、今後どのような視点で地域づくりを進めていくのか、県内の事例も参考にしながら確認します。
趣味や娯楽、教養、就労、ボランティア活動など、多くの人は元気なうちは社会とつながりを持ち生活を送っています。しかし、高齢期を迎えて身体的に虚弱になったり、認知機能の低下がみられたりして介護保険サービスを利用すると、地域とのつながりが途切れ、地域から遠ざかってしまうことが懸念されています。そして、サービスを利用する側(支えられる側)の人として固定化される傾向にあります。
支えられる側に固定化するのではなく、要支援や要介護になっても地域で暮らす生活の主体として、地域とのつながりを継続し、本人が希望する多様な活動に主体的に参加できる選択肢を持てるようにすることが大切です。また、専門職が本人の暮らし、希望を知ることで地域とのつながりを継続しやすくなります。
県内の事例・エピソード
70代の女性Aさん。以前、ピアノの先生をしていました。Aさんは、地域の居場所でピアノの演奏をするなど、ボランティア活動をしていました。ある時、腰椎の圧迫骨折で入院し、要支援2と認定されました。入院中に居場所の友人から、「戻ってくるのを待ってるからね」とたびたび連絡があったそうです。骨折の痛みでピアノを弾くことへの大きな不安がありましたが、Aさんは「早く戻りたい!」とリハビリに励んだ後、地域の居場所に温かく迎えられ、再びピアノを弾いて生き生きと生活を送っています。担当の地域包括支援センター職員は「ご本人の思いに寄り添い、居場所に戻ることを目標に計画を立てました。活躍の場や友人の呼びかけがなければ介護保険サービス中心の生活になっていたかもしれません」とつぶやきました。
高齢者をはじめとする多くの人の暮らしは、幅広い世代との関わりの中で成り立っています。例えば、多世代交流の場などは、高齢者の社会参加につながるだけでなく、その結果として子どもの育ちや保護者の支えになるなど、多様な世代の支援につながっていくことも想定されます。支援される対象となりがちな高齢者に役割が生まれることで楽しみや生きがい、介護予防につながります。
県内の事例・エピソード
毎月1回開催している三田市の“ほっこり広野”。高齢者だけでなく、子育て中の母親と乳幼児、障害者と事業所職員、近隣の外国人らが参加する多様性豊かな多世代の交流の場です。福祉制度は、高齢者福祉、児童福祉、障害者福祉と縦割りとなりがちですが、自分たちの地域に見合った形で多世代が集う場に作り替えています。ここでは、お茶を飲む人もいれば、折り紙・手芸・囲碁・将棋など自分がしたいことに参加する人もいます。また、乳幼児の遊び相手や母親の話し相手、障害のある人との交流などの楽しみや役割も生まれています。同じ時間にフードドライブも実施しており、食品の寄付に訪れた人をおしゃべりの場に誘うなど、新たな参加者が増えるような工夫をしながら取り組んでいます。

高齢者をはじめとする多くの人の暮らしは、医療・介護専門職との関わりだけではなく、地域の住民や産業との関わりの中で成り立っています。
例えば、ひょうごの福祉No.861で紹介した「クールシェアたからづか」は、猛暑の時季に市内約200カ所の企業や商店などの協力を得て、誰もが立ち寄り涼める場を提供しています。異なる企業や業種であっても「地域のために行動する」という協働意識のもと、企業と地域住民との関係が深まり、お互いに見守り合う、気に掛けあう地域づくりにつながっています。
このように、地域づくりの観点から、高齢者施策以外の分野(産業、労働、教育、環境、交通、防犯・防災、地域振興等)や地域の民間企業等を含む多様な主体との連携・共創を進めていくことが求められます。
県内の事例・エピソード
神河町社協が運営する多機能型事業所ひと花は、コープこうべと連携し、買い物困難者を支援する「見守り個配サービス」(週1回)を実施しています。これは、障害のある方が、高齢者宅に注文された商品を配達する取り組みです。訪問の際にゆっくりと談笑する時間をとっている点が特徴です。毎週の訪問を楽しみにして玄関口で待っている高齢者も少なくありません。介護が必要なひとり暮らしの方の利用も増え、今では高齢者の在宅生活を支える重要な取り組みです。
障害があっても地域の人を支える立場になり、高齢者も配達の機会を通じて生活の知恵や工夫を伝承する良い循環が生まれています。障害者の社会参加と個人宅配の仕組みを掛け合わせることで、高齢者の生活を支えています。

紹介した3つの事例は、支えると支えられる役割を循環しながら豊かなつながりを育むこと、世代を超えて、分野を超えて力を合わせることの大切さを教えてくれます。
地域で暮らす人や地域にあるものは、地域によってさまざまですが、これまで県内各地では住民同士で話し合いを重ねながら、じっくり合意形成を進め、地域の居場所づくりや見守り・支え合いなどの活動に取り組み続けてきました。その結果、地域共生社会につながる多様な取り組みへと充実が図られてきています。
そして、制度改正を追い風にして、高齢者を含む住民が主体的に参加できる選択肢や活躍につながるような場を広げていくこと、地域住民と専門職、多様な主体、行政がチームとなって地域の力を組み合わせていくことが、これからの地域づくりの鍵となります。
豊かで多様なつながりのある地域を次の世代につないでいくためにも、今までの取り組みを生かしながら、みんなが参加して元気になれる、笑顔が広がる地域づくりを進めていきましょう。
事例で紹介した「多機能型事業所ひと花」については、ホームページもご覧ください
ひと花ホームページ
https://www.kamikawasyakyo.or.jp/service/kaigohoken-syougaifukushi/hitohana/