【特集】オール兵庫で進めるほっとかへんネットワーカーの取り組み

「ほっとかへんネットたいし」との協働で実施した食料支援(太子町)
大学生や高校生の協力を得て開催した、子どもたちへの学習支援(神河町)
ほっとかへんネットワーカーの活動について協議する活動推進委員会
日ごろの取り組みについて、ほっとかへんネットワーカーが
情報共有・意見交換をする実践交流・情報交換会

 兵庫県社協では、生活福祉資金コロナ特例貸付の借受世帯へのフォローアップ支援として、令和5年度より「社協における生活困窮者支援体制強化事業」(ほっとかへんネットワーカー配置事業)に取り組んでいます。県内の全市区町社協に配置された「ほっとかへんネットワーカー」は、厳しい生活を強いられている特例貸付利用世帯からの相談対応、生活状況の実態把握、行政や社会福祉施設・事業所、地域住民などと連携した支援体制づくりを各地で進めています。
 今号では、生活困窮世帯の課題に対応する活動事例を紹介し、今後の展望をまとめます。

県内全市区町に配置されたほっとかへんネットワーカー

 令和2年3月より2年半にわたり取り組んだコロナ特例貸付。令和5年1月から償還が始まったものの、コロナ禍とその後の物価高騰で打撃を受けた経済情勢の回復は道半ばで、貸付を利用した世帯など生活困窮世帯が安定して暮らせる基盤を築くことは依然として難しい状況です。
 県社協では、困窮状態が続く特例貸付利用世帯などが安心して暮らせるよう、必要な支援と地域のセーフティネットの充実を通した社会的孤立・排除の解消と予防を目的に、県内全ての市区町社協に「ほっとかへんネットワーカー」を配置し、さまざまな取り組みを進めています。

ほっとかへんネットワーカーの役割

 ほっとかへんネットワーカーは、県内各地で次のような役割を担っています。

1 特例貸付利用世帯への相談支援

 特例貸付を利用した世帯への相談支援を進めます。貸付を利用した後も収入の減少や失業などで困窮し、生活の維持が困難になった場合などには、負担を軽減するために償還免除・猶予などの各種手続きを支援します。

2 孤立・複合多問題をネットワークで支え合う体制づくり

 複合的な問題を抱えるなど生活に困窮する一人一人により良い支援をするため、行政やほっとかへんネット(社会福祉法人連絡協議会)などの関連機関などとのネットワークを構築します。個別ケースや地域の社会資源に関する情報を共有する仕組みをつくるなど、ほっとかへんネットワーカーは多機関連携での支援を進めます。

3 当事者がつながりを実感できる取り組み・資源の創出

 関係機関との会議、アンケート調査などによって特例貸付を利用した世帯や地域住民の困りごとを把握します。また、地域にある住民活動・居場所などの社会資源の情報を収集し、さらに既存の制度や社会資源で対応できないニーズに対しては、あらたな資源の開発を行います。
 ほっとかへんネットワーカーが「相談支援」や「地域づくり」で役割を果たすためにも、その基盤にある「社協の体制づくり」が重要です【図1参照】。そのため各社協では、職員一人一人のアセスメント力の向上を図るだけでなく、組織的な対応が図られるよう部局間連携を推進して社協の総合力を発揮できる組織づくりを目指しています。

図1 地域力アップにつなげる仕組み

県内各社協での取り組み

 各市区町社協は、借受世帯の相談支援や情報提供を行う「基本事業」に加え、地域の実情にあわせた創意工夫ある「選択事業」に取り組んでいます。主な取り組みと成果を紹介します。

1 生活課題の実態把握

 多くの社協では、電話、郵送、Webフォームなどを組み合わせ、特例貸付利用世帯を含めた生活困窮者の実態調査をしています。調査で把握した課題は、行政や関係機関と共有して支援の充実につなげています。

2 関係機関と連携した地域生活課題への対応

 状況に応じて、弁護士やファイナンシャルプランナーなどの専門職などと連携し、相談会などを通じて相談者のアセスメントや自立に向けた支援を行っています。
 また、民生委員・児童委員と連携し、地域で暮らす生活困窮世帯との関係づくりを進め、社会的孤立を生まない地域づくり、多機関連携による生活困窮支援に取り組んでいます。

3 当事者の参加の場づくり

 生活課題を抱える当事者自身が持つ力を生かした活動や参加の場をつくる取り組みも各地で進んでいます。
 例えば、特例貸付を利用した世帯に実施したアンケート調査の結果から、ボランティア活動に関心のある人にボランティアセンターへの登録を呼び掛け実際の活動につなげたり、特例貸付を利用した飲食店の経営者が講師役となった料理教室を開催した例などがあります。生活に困窮した当事者が主体的に活動し、参加できる場づくりを進めることは、困窮者支援に対する地域の理解を広げるきっかけにもなります。

4 就労支援・中間就労の促進

 就労支援の取り組みの一例として、ほっとかへんネットと協働し、一般就労に結び付きにくい人への福祉現場の見学会や就労体験の実施があります。また、本人の希望に沿った就労に向けてハローワークへの同行支援も行い、これらの取り組みを経て、実際に正社員として就職した人もいます。

 ここからは、ほっとかへんネットワーカーが配置された社協での活動事例を紹介します。

事例1 特例貸付返済に関する相談会の実施(神戸市中央区社協)

 貸付利用世帯への償還猶予・免除に関する手続きの支援と併せ、令和6年9月、区社協では債務に関する弁護士相談や就労の相談支援をワンストップで提供する相談会を実施しました。相談会に先立ち、貸付利用世帯のうち償還中や滞納中の約2、700世帯にチラシを送付。このチラシは、相談しやすくするため「やわらかい雰囲気」「わかりやすい内容」を意識して作成しました。
 相談会で一番多かったのは、多重債務に関する相談でした。これを相談を受けると同時に弁護士会につなぐなど、ワンストップで開催した効果で適切な支援が提供できました。今後は、相談会で寄せられた相談内容を整理・分析し、今後の支援の充実につなげます。

相談内容に応じて、関係機関と連携した対応を図りました

事例2 生活困窮者支援ネットワーク会議の開催(相生市社協)

 特例貸付の利用世帯からの相談について、市社協では、経済的な困窮のみならず就学・就労に関する相談も含め、複合的課題を抱えた相談が多いと感じていました。この状態を脱却するには関係機関の連携による支援が必要だとして、令和5年度に生活困窮者支援ネットワーク会議を始めました。
 この会議では、行政、水道企業団、民生委員、対象者の家族などが一堂に会し、困りごとを抱える世帯に関する情報共有や課題の整理、支援方法を各々の視点から考え、実際の支援につなげます。会議で協議する件数も年々増えていますが、会議を通して関係機関同士の顔が見え、日頃から相談し合える関係も築かれてきており、今後も一人一人に合った支援が図れるものと期待されています。

関係者が集まり、複合的な問題を抱えた世帯への支援を共に考えました

事例3 中間就労・就労のきっかけづくり(丹波市社協)

 特例貸付の利用世帯から市社協に多く寄せられていたのは、ひきこもりや疾病などの課題を抱え、本人や家族が思うように就労できないという相談でした。市社協は就労のきっかけとなる活動を進めることになり、ひきこもり・生活困窮などの問題に直面した当事者(特例貸付利用者含む)を対象に、草刈りの補助、フードドライブの仕分け作業、資料封入、イベント準備などをしてもらうことにしました。これらの作業について、特例貸付の利用世帯に直接的に周知するのではなく、生活困窮・ひきこもりなどの当事者を把握している支援団体を通じて呼び掛けました。
 就労のきっかけになればと始めたこの取り組みに、令和5年度は約30名、6年度は約40名が参加。「簡単な仕事でも外に出て誰かに喜ばれてうれしい」「作業を通じて自信を取り戻せた」という声もあり、この場を経て就労につながった人もいます。支援団体や市社協には、参加者からの仕事や作業を依頼してほしいという前向きな声も届くようになっています。

フードドライブの仕分け作業を通して、就労のきっかけづくりとしました

事例4 「お金に関する講座」の実施(高砂市社協)

 貸付利用世帯への実態把握調査から、市社協では、慢性的に生活が不安定な世帯が、特に子育て世帯に多いことを把握しました。また、窓口での相談でもお金の使い方に問題がある世帯が見受けられ、「親子に向けたお金に関する講座」の開催を決めました。
 初年度の令和6年は、小学校高学年の子どもがいる親子を対象に講座を企画し、一般公募と併せて貸付利用世帯に個別に案内を送付。参加する子どもたちは、ゲームや疑似体験によってお金の大切さを学び、保護者は、将来子どもに必要な経費(学費など)を学ぶ内容としました。
 子どもの頃からお金の大切さと正しい金銭教育に触れることは、将来、社会で生きる力を育み、世代を超えた貧困スパイラルを防ぐために必要な取り組みと言えます。

将来も見据え、子どもの頃からお金の大切さに触れる機会を提供しました

ほっとかへんネットワーカーの活動を充実させるために

 コロナ禍では、食料品などの寄付も多く寄せられるなど、生活困窮への関心が高まりました。その一方で、困窮状態に陥ったことを自己責任や他人事として捉える人もいます。特例貸付の利用者には、コロナ禍に直面するまで不自由もなく暮らしていた人も多くいるため、生活に困窮している実態が見えづらく、理解されづらい面があります。そのため、何かのきっかけで生活に困窮することは、誰にでも生じ得る「我が事」だということを、地域に理解してもらうことが大切です。「自らSOSを発信できない人がいるかもしれない」「孤立して必要な情報や支援が届いていないかもしれない」とう意識が、地域に少しでも広がれば、生活困窮世帯への気づきやアプローチが生まれ、ひいては誰も取り残されない支援体制づくりにつながります。
 また、生活困窮者への支援は、行政や関係機関・団体と課題を共有し、協働で取り組むことが重要です。社協に寄せられる相談の現状や支援上の課題を積極的に情報共有し、福祉分野だけでなく、商工・教育・労働などの分野とも横断的に連携して対応することも求められます。

 これらも念頭に県社協では、昨年度、学識者や県行政、市町社協職員で構成する「活動推進委員会」を設置しました。ほっとかへんネットワーカーの活動の充実と強化を図るため、困窮者支援について考える「実践交流・情報交換会」の開催、各地の取り組みを紹介する「ほっとかへんネットワーカー活動事例集」の作成なども進めました。
 ほっとかへんネットワーカーの活動を発展させ、特例貸付を利用した世帯を含む生活困窮世帯が地域で安心して暮らせるよう、また、社会的孤立の解消や予防につなげられるよう、関係者と共に取り組みを進めていきます。

 今年3月に発行した「活動事例集」は、県内社協をはじめ福祉関係者に送付しています。今回紹介した事例も含めて、県内各地の多彩な活動を掲載しています

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