私の物語 – 吉富 志津代さん

 このコーナーでは、地域福祉のキーパーソンや実践者・当事者らのエピソード・思いを紹介していきます。

文化を超えたつながりづくり

吉富 志津代(よしとみ しづよ)さん
特定非営利活動法人 多言語センターFACIL(ファシル) 理事長

Personal History

平成2年
ボリビア名誉総領事館へ就職
平成7年
阪神・淡路大震災後、カトリックたかとり教会内にて外国人向けのボランティア活動を実施
平成11年
多言語センターFACIL設立(法人化は平成18年)
平成23年
大阪大学大学院の教員職に就任
平成29年
名古屋外国語大学の教員職に就任

私のモットー

多様性を認め合い、国籍で線引きをしない!

「助けてほしい」という声を受けて

 大学でスペイン語を専攻した私は、在神戸アルゼンチン領事館を経て、平成2年、在神戸ボリビア名誉総領事館で秘書として働き始めました。
 この年、入管法の一部改正で日系人の受け入れが始まったのですが、受け入れ体制もあまり確立されておらず、日本語に不慣れな人からの相談が領事館に殺到しました。ビザの切替え申請などの書類も日本語訳が必要で、専門業者に頼むと高額の費用が必要でした。
 ある日、一人のボリビア人から「助けてほしい」と相談を受け、ボランティアで翻訳をしたところ、口コミで次々と依頼が続きました。多くの人が言葉の壁に苦労していることから、翻訳で支援をするために友人にも声を掛けやすいよう、無償のボランティアではなく安い価格で依頼を受けることにしました。無償では遠慮をする人も、低額ならば少し気軽に相談でき、依頼された側もちょっとした収入になるという、双方にプラスの関係が築かれました。これが今のFACILの活動につながっています。

言葉が違っても、みんな地域で暮らす「人」

 これまでの活動で見えたのは、日本での「外国人の生きづらさ」です。日本語がわからないがゆえに、例えば、文化の違いもあって地域社会のルールが理解できず、ゴミのルールを守らない、音楽の音が大きすぎるなどの近隣トラブルが生じ、コミュニティから排除される現実があります。
 また、情報が届かないことで公的扶助やひとり親世帯への支援などの存在も知らず、相談もできないため、貧困に陥る事態も起きています。これは災害時などに一層深刻になりますし、今のコロナ禍でも同じことが言えるのではないでしょうか。
 そこでFACILの設立当初から力を入れていることの一つが、行政のパンフレットなどを多言語だけでなく「やさしい日本語」に翻訳する活動です。やさしい日本語は、外国人に加え、子どもや高齢者などにもわかりやすく、またそれを多言語に翻訳することで、必要とするより多くの人に大切な情報が届く一助になればと思います。
 多様性という言葉が一般的になった現代でも、「外国人」への差別や偏見は存在します。自分ごととして逆の立場を想像し、コミュニティの輪の中に引き入れる必要があると思います。そのためにも「双方向のコミュニケーションの促進」により私たちが橋渡しを担いたいと考えています。
 誰もが地域で暮らす人として国籍や出自で線引きされず、手を取り合って暮らせる「共生」の文化を根付かせる活動を続けます。

ワクチン接種会場での通訳もFACILの重要な活動です
FACIL

 地域社会と外国人をつなぐNPOのコミュニティビジネスとして、地域のニーズに寄り添いながら、多言語への翻訳や通訳者の派遣などを行っている。

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