2025年3-4月号
皆さんは「ヤングケアラー」や「ケアリーバー」という言葉をご存知ですか。
令和4年4月に「こども家庭庁」が創設されて3年が経ちます。その間、「児童福祉法」や「子ども・若者育成支援推進法」が改正され、子どもや若者を巡るさまざまな施策が進められています。
今回の特集では、課題を抱える子ども・若者が置かれている現状や支援の実際をお伝えし、私たちに求められることを考えます。
ヤングケアラーとは、「家族の介護その他の日常生活上の世話を過度に行っていると認められる子ども・若者」と子ども・若者育成支援推進法(以下「子若法」)に明記されています。
また、「ケアリーバー」とは、法律での定義はありませんが、県では、「児童養護施設や里親などの社会的養護の保護(ケア)を離れた方(リーバー)のこと」としています。
近年、核家族化や地域のつながりの希薄化に加え、コロナ禍や物価高騰に伴う経済格差の拡大も相まって、児童虐待や若者の引きこもりなどの問題が、より顕在化しています。
国の調査では、20歳未満の子どもがいるひとり親の世帯の約9割が母子世帯で、就労による平均収入が父子世帯の半分以下であることが分かっています(図表参照)。経済的に苦しい中、配偶者の助力を得ることもできず、負担感を高め、孤立感を深めやすい状況にあって、児童虐待の主な要因として指摘されています。
また、ヤングケアラーに関する平成30年の国の調査では、約半数が母親のケアを行っていることも明らかになりました。このような状況を踏まえ、国は子ども・若者に加え、家族も含めた支援を方針の一つに打ち出し、各種施策の推進が目指されています。
ここからは、「ヤングケアラー」と「ケアリーバー」の実態をお伝えし、課題を抱える子ども・若者の現状のイメージを深めます。
国が実施した令和2・3年度の調査では、小学生6年生の6.5%、中学生2年生の5.7%が、「世話をしている家族がいる」と回答しており、ヤングケアラーが決して珍しくない実態が明らかになりました。
子どもが家事や家族のケア、手伝いをすること自体は、今に始まったことではありません。しかし、年齢や発達に合わない過度な家事や家族のケアが負担となり、学業・進路の選択などに支障が出ることが問題です。
さらに、周囲との関係が希薄化し、誰にも相談できないまま状況が深刻化することも大きな問題となっていることから、令和6年改正の子若法にヤングケアラーが初めて定義され、継続的な実態把握や社会的認知度の向上のための取り組みや支援が展開されています。
ヤングケアラーの特徴や抱える問題について、日々、相談窓口で支援に関わる兵庫県社会福祉士会に伺いました。
令和元年に神戸市で起きた事件が挙げられます。自宅で20代の若者が介護中の祖母を殺害してしまった事件ですが、就職して日が浅く慣れない仕事のかたわら、認知症の祖母の介護を一手に担い、相談もできず孤立を深めたことが背景にありました。
国や県で平成30年度から実施している調査なども踏まえ、ヤングケアラーへの支援が重点化され、令和4年から県の委託で相談窓口が設けられました。
電話やメール、LINEを通じて相談を受け付けますが、特に、若者になじみがあるLINEは、継続的にやり取りとりする有効なツールです。本人ではなく「気になる子がいる」ということで、周囲の人から連絡が入ることもあります。
相談者の年齢層としては、小中高生よりも、18歳を超える「若者ケアラー」からの相談が多くなっています。これは、18歳を超える若者が、自分が人と違う環境で暮らしていることに違和感を持ち「自分はヤングケアラーかも」と気づくことが少なくないためです。一方、小中高生は、置かれている日常が当たり前と思い込んでしまい、自ら相談をすることは少ない傾向にあります。他にも「親に知られたくない」「相談した後どうなるか不安」など、相談をためらう理由は、一人一人が置かれている状況と同じく、実にさまざまです。
寄せられる相談から、複合多問題を抱える家族の姿が思い浮かぶことが少なくありません。ケアをしている子ども自身の精神的な不安定さを感じることも多く、家族状況では、多子や経済的困窮にある世帯などの背景を感じることがあります。
相談のあったケースでは、継続的に関わりつつ、本人が暮らす地域の支援機関につないだり、家事負担の軽減のために配食サービスを紹介するなどの対応をしています。
相談者からは「自分の趣味がわからない」との声も聞きます。ケアに追われ、自由な時間や色々な経験を積む機会に乏しいためです。このことは、子ども・若者にとって職業選択や就職、将来の経済的な自立に影響が残らないか気になる点です。
子どもが家事や手伝いをすること自体は昔からあったことなので、周囲の大人も問題に感じないことがあると思います。ただ、地域で活動する民生委員や福祉関係者の方に伝えたいのは、「ヤングケアラーの存在に気付いてほしい」ということです。ヤングケアラーと思われる子どもたちは自らSOSを出すことは難しく、孤立していることを意識してもらえたらと思います。直接話ができる関係ならば、状況を聞いていただき、それができなくても、市町の担当や相談窓口に連絡してもらえたらとも思います。
専門職も複合多問題のケースなどでヤングケアラーの課題に対応することもあると思います。専門職同士の連携では、自分の業務の範囲で線引きをせず、少しはみ出して互いの隙間を埋める「のりしろ」が大事だと思います。また、当事者からの相談を待つのではなく、アウトリーチによる支援も大切です。
昨年10月、県と本会で「兵庫県ヤングケアラー・若者ケアラー支援ガイドブック」を作成しました。自治体職員や福祉、学校関係者などに見てもらいたいですし、多くの人にヤングケアラーの課題が認識され、支える仕組みやコミュニティづくりが進めばと思います。
【話し手】
兵庫県社会福祉士会
事務局 胡中 智礼さん
令和6年4月に児童福祉法が改正され、県でもケアリーバーの実態把握や交流拠点づくりが進められています。県内では平成30年度から5年間で約300人が児童養護施設などを退所しケアリーバーとなっています。
以前から、ケアリーバーは、親などの頼れる人がおらず、施設等とのつながりも薄れていく中で、退所後の生活に困難を抱えていることが指摘されていました。では、なぜ、今このような対応が求められているのでしょうか。
背景には、経済格差による貧困や社会的な孤立を背景にした子どもへの虐待の急増があります。令和4年度の国の調査(※)では、子どもを保護した最も多い理由は、親からの心理的暴力やネグレクトなどの虐待が約半数を占めており、児童養護施設においては前回調査(H29)から1割増えています。
また、知的障害や発達障害など、何らかの障害などを抱える被保護児童が増えていることにも注目する必要があります。特に、「アスペルガー症候群」や「注意欠陥多動性障害」といった発達障害の割合が増加しており、コミュニケーションや人間関係など、日常生活のさまざまな場面において悩みや困りごとを抱えている児童も少なくはありません。
※「児童養護施設入所児童等調査の概要」(R5.2.1時点)
保護された子どもやケアリーバーは、実際、どのような悩みや問題を抱えているのか、県内の児童養護施設で入所児童やケアリーバーの支援に取り組んでいる関係者に伺いました。
児童養護施設では、親から虐待を受け、警察を経由して入所するケースが増えています。虐待の背景を調べると、子どもをどのようにして育てたらよいのか周りに聞ける人がいなかったことや、親も子どもの頃に虐待を受けた経験があったことが分かり、子どもだけでなく、親自身への支援も求められていると感じます。また、コミュニケーションが苦手で、人間関係をうまく築けない子どもが多いことも特徴です。このような子どもたちが施設を出て、進学や就職をしても、授業のレベルに学力が合わずに退学したり、人間関係などでストレスを抱え退職したりするケースが少なくありません。
退所後の金銭管理の問題もあります。入所中はアルバイト代の管理や携帯電話の準備などは職員が担っていますが、退所して支援が一気になくなる落差に対処できず、貯金を使い果たすなど、生活に行き詰まることがあります。入所段階から、買い物や病院受診、契約や行政の手続きなど、予算に応じた金銭管理ができるよう、ひとり暮らしに向けた支援の充実が求められています。
さらに、進学や就職において視野が狭くなりがちなことも特徴です。例えば、保育士などの施設職員の仕事を目指して進学や就職しても「したいことと違った」「虐待の授業で自分の経験と重なった」と早期に退学や退職に至ってしまう場合もあります。小さな頃から多様な人と出会い、さまざまな世界を知る中で、進路選択の視野を広げながら、将来の夢や目標を見つけられる機会が必要です。
私たちの施設では、トラブルや退学・退職など困難に陥った時に、いつでも施設を頼ることができるようLINEを活用して普段から職員とつながっています。些細なことでも気軽に連絡を取り合うことで、いざという時のSOSに応えられる関係づくりを進めています。
兵庫県児童養護連絡協議会では、将来の選択肢を広げられるよう、さまざまな企業と連携し、どのような仕事があるのか早い段階から知る機会として「就職支援セミナー」を開催しています。今後は、大学進学を選択肢として考えられるよう、現役大学生との交流の場づくりも計画しています。
また、ライオンズクラブと連携した地域の祭りへのブース出店や、子ども食堂へのスタッフ応援など、入所中から地域の大人とのつながりづくりに積極的に取り組んでいます。
読者のみなさんには、このような生きづらさを抱えるケアリーバーらの実態を理解し、地域で暮らしていることをまずは知っていただきたいと思っています。
【話し手】
児童養護施設 アメニティホームルピナス高砂
施設長 大野 誠さん(一般社団法人 兵庫県児童養護連絡協議会 理事)
ここまでの両方の実態から、どのような共通課題があるのでしょうか。
一つ目は、問題が深刻になる前の早期発見です。当事者からSOSが発信しづらいことを踏まえると、普段から気軽に連絡を取り合うなど、何かあった時の変化や異変にすぐに気づく関係づくりが大切で、SNSもその一つと言えます。
二つ目は、発見された課題を受け止める体制づくりです。子ども・若者を中心に置きつつ、ともに暮らす家族も含めたトータルな支援ができるよう、行政や専門職などが分野を超えて連携することが必要です。
三つ目は、問題を抱える子ども・若者とその家族を正しく理解し、受け止めることです。起こっている問題の背景に着目することや、子ども・若者の気持ちに寄り添う姿勢が大切です。
子ども・若者を“まんなか”に、誰も取り残さない社会づくりに向けて、私たちにできることは多くあります。
社会福祉士会では、ヤングケアラーへ、兵庫県児童養護連絡協議会では、ケアリーバーへ、さまざまな支援を行っています。
詳細は各ホームページをご覧ください。
兵庫県社会福祉士会
http://www.hacsw.or.jp/
兵庫県児童養護連絡協議会
https://hyogo-kids.gr.jp/