【特集】ヤングケアラーを支える仕組み・地域づくり

当事者のつどいやイベントはスクールソーシャルワーカー同士で情報交換をする機会にもなります

「兵庫県ヤングケアラー・若者ケアラー相談窓口」の開所式
(県社会福祉士会)

 近年、社会問題として認識されるようになってきた「ヤングケアラー」。兵庫県は、昨年度にその支援に関する検討委員会を開催し、「兵庫県ケアラー・ヤングケアラー支援推進方策」をとりまとめました。
 また、国でもヤングケアラーへの支援が予算化され、各地で支援に向けた検討や実践が芽生えつつあります。
 今号の特集では、ヤングケアラーの実情を知るとともに、当事者や支援現場の声を交え、ヤングケアラーを支える仕組みづくり・地域づくりに必要なことを考えます。

明らかになりつつあるヤングケアラーの課題

 近年、「ヤングケアラー」の言葉をよく耳にするようになりました。明確な定義は存在しませんが、一般的には「本来大人が担うと想定されている家事や家族の世話、介護、感情的なサポートなどを日常的に行っている子ども・若者」とされています。
 この数年、国や自治体が実施する調査で、ヤングケアラーを巡る実態が明らかになりつつあります。例えば、令和2~3年度に国が実施した調査では、中学生の17人に1人、小学生の15人に1人がヤングケアラーだとする結果が公表されました。これは、概ね1クラスに1~2人の子どもが日常的にケアを担っている計算になります。
 また、県でも令和3年度に、要保護児童対策地域協議会、子ども食堂、民生委員・児童委員などを通じて「ヤングケアラーの実態に係る福祉機関調査」を実施しました。以下、その調査結果から見えてきたことを抜粋して紹介します。

ヤングケアラーとみなされる子どものうち、自分自身が「ケアラーである」という認識がある子どもは14・3%

 育った環境が当たり前だと思っているためか、自身がケアラーだという認識を持つ子どもの割合は非常に少ないことが明らかになりました。この結果からは、ケアを担う子どもたちが自ら相談して助けを求めにくいことが考えられます。

ケアの対象の過半数は兄弟姉妹、次いで母親。ケアの内容の上位3つは「きょうだいのケア」「家事」「感情面のケア」である

 子ども・若者が担うケアは、対象も内容もさまざまです。祖父母の介護に限らず、実際には、障害を持つ兄弟の世話、病気がちの親に代わっての家事、身体介護だけではなく心のケアなど多様性があります。

ケアを担うことで生じる生活への影響は多方面に及んでいる

 ケアによって子どもたちの生活にどのような影響が出ているのか、具体的な状況は(図表1)のとおりです。これらは学校生活の場面を中心に、子どもたちの置かれた状況や変化に気づく手掛かりになります。

【図表1】生活への影響について

 実態把握と並行して、ヤングケアラーへの支援が各地で徐々に始まり、ケアラー(経験者も含む)同士が集い、経験を分かち合うセルフヘルプグループが立ち上がる動きもあります。
 ここからは、ヤングケアラーの当事者と支援にあたるスクールソーシャルワーカーへのインタビューを紹介し、支援に必要な視点や取り組み、求められる地域社会の姿を考えます。

当事者と専門職へのインタビューから

①自分の経験を社会に伝えたい 原田 伊織さん (県内在住のヤングケアラー、大学生)

 幼い頃に両親が離婚し、母子家庭で育ちました。母は仕事を頑張り、懸命に私たちを育ててくれましたが、うつ病を発症してしまいました。私たちの成長に伴い、周囲の支えが減ったことも背景にあったのかもしれません。
 4人兄弟の末っ子の私は、家事も手伝いましたが、母の話を聞くなど精神的なサポートに時間を使っていました。家には、児童福祉や生活保護のケースワーカーが関わっていましたが、子どもである私たちに声を掛けてくれた記憶はほぼありません。
 自分の状況を人に打ち明けたのは、高校1年の時。宿題を出せないことを叱られ、どうしてもできないことを泣きながら訴えると、先生が家の状況に耳を傾けてくれました。その先生が、3年間担任として気持ちに寄り添ってくれたことに感謝しています。高校時代は、友達との遊びも我慢し、進学に備えてアルバイトに励みましたが、アルバイト先では自分の状況を打ち明けられませんでした。その頃は、自身の状態を表現する言葉を知らなかったのかなと振り返っています。
 自身がヤングケアラーだと理解して大学生となった今、母との関係は、親子より支援者と支援を受ける人という関係に近く、悩みも無くはありませんが、私の経験が人のためになればと、「ふうせんの会※1」に参加し、運営メンバーとして関わっています。
 ヤングケアラーへの支援が始まりつつあることは歓迎しますが、対象者探しだけが進み、子どもの思いを踏まえない支援がされないか懸念しています。専門的な支援に加えて大事なのは、それとなく気に掛け、声を掛けてくれる大人の存在。地域のつながりです。そのためにも、「ふうせんの会」の活動から、ヤングケアラーについて地域社会に発信できたらと思います。

※1:ヤングケアラーの当事者グループ。
ホームページはこちら
https://ycballoon.org/index.html

②子育て世帯が孤立しないつながりづくり 黒光さおりさん (尼崎市教育委員会 スクールソーシャルワーカー)

 いじめ、不登校、経済的困窮など、子どもを取り巻く環境はさまざまですが、介護や家事で大変だという相談はほとんどありません。大変だけど、家族の介護や家事にやりがいを感じている子どももいて、本人が「困りごと」だと認識していないためです。また、誰かに相談することで家族が責められるのではという不安も抱えています。
 子どもは信頼する大人にしか悩みを話しません。無理に困りごとを聞き出さず、継続的に関わる中で自ら相談するのを待つようにしています。小学校高学年であれば、置かれた状態を一緒に確認し、選択肢を用意しながら、子どもの意思を尊重して今後に向けた動きを図ります。また、地域の集いの場(子ども食堂やカフェなど)を積極的に紹介し、子どもの世界を広げることも大切にしています。
 学校の支援は、人事異動などで一年単位になり、卒業で関係も途切れがちです。子どもたちの心身と家庭環境の変化を継続的に見守るためにも、いつでも安心して相談できる人が複数いること、さまざまな角度から見守ることが大切だとも感じます。
 「ヤングケアラー」とされる子どもたちの困りごとの多くは、ケアが必要な親や兄弟などに支援やサービスが行き届いていないことで生じます。親も、子どもに申し訳なく思いつつ、家族だけで頑張ろうとしています。社会から孤立した中で、子どもが外に助けを求めることは困難です。私たちはそのような世帯と時間を掛けて関係を築きます。そして、家族と笑って世間話をできるようになると、心を閉ざしていた子どもは途端に相談してくれることもあります。笑って何気ない話をすることは支援のスタートラインなのです。
 また、「おはよう」「おかえり」といった地域での登下校の見守りや日常のあいさつも大切です。単身化や核家族化が進む中、ケガや障害を負った途端にその家族の生活は厳しくなります。普段から一人一人が孤立せず、SOS を出しやすいつながりを地域でつくることが、ヤングケアラーだけでなく住民みんなが住みやすい社会をつくります。

実際の相談では、さまざまな道具を使って、子どもたちの気持ちを引き出す工夫も

家族のケアを担う全ての人にサポーティブな地域社会を

 今後、私たちにどのようなことができるのかを考えるため、ヤングケアラーを支える仕組みづくり、地域づくりに必要なことを整理します。

①寄せられた相談への支援を地域と共に考える

 6月1日、「兵庫県ヤングケアラー・若者ケアラー相談窓口」が県社会福祉士会に開設されました。
 その開所式の際、同会の谷口弘会長(当時)が、「学校関係者、民生委員・児童委員、社協など周囲の大人の気づきが必要。そのような方も相談を寄せて欲しい」「相談に寄り添い、市町や関係機関と連携して支援を進めたい」と語ったように、子どもたちが自らSOSを出しづらい実情を踏まえ、周囲の大人の気づきを相談につなげることが大切です。また、受け止めた相談は、ヤングケアラー本人が暮らす地域での専門職を交えた支援に展開させることが求められます。

②分野を越えた専門職間の連携

 専門職による支援で重要なのは、ケアを担う子どもに加えて、ケアを必要とする親や兄弟などを含む世帯トータルでの支援を検討することです。例えば一つのケースでも、訪問介護や障害福祉サービスの利用、子どもへの食事や学習支援などさまざまなサポートが想定されます。そのためにも、学校関係者、福祉関係者でも、高齢・障害・児童・生活困窮者支援など分野を越えた専門職の連携が不可欠です。

③日常的な地域でのつながりと見守り

 日常的に気に掛け、声を掛けてくれる大人の存在がヤングケアラーを孤立から救います。これは、専門職の支援が始まってからも同様です。つながりや見守りを途切れさせない地域づくりは、ヤングケアラーに限らず、さまざまなケアを担う人を支えるうえでも重要なことです。

④子どもの権利※2を尊重する視点

 ヤングケアラー本人からの相談を受ける中では、子どもを保護するという観点に偏ることなく、子どもの権利を守り、その意思を尊重する視点も忘れてはなりません。
 また、権利を尊重するという面では、セルフヘルプグループの組織化も大切です。これらのグループには、仲間同士で経験や情報を分かち合い、例えばどのような仕組みや支援が必要なのか、当事者が主体的に社会に向けて発信することが期待されるからです。

※2 子どもの基本的人権を国際的に保障する「子どもの権利条約」では、「生きる権利」「育つ権利」「守られる権利」「参加する権利」の4つの柱が定められています

 今後、地域社会が目指すべきは、ヤングケアラーを孤立させず、悩みなどを抱えこまないよう相談ができる体制をつくり、寄り添った支援を進めることです。兵庫県では、相談窓口の開設の他、支援に携わる専門職への研修や、当事者組織に関する支援が予定されています。ヤングケアラーに限らず、家族介護者(ケアラー)への支援の必要性が社会に認識され、誰もがつながりや支えを得て暮らしていける地域づくりが大切です。

兵庫県ヤングケアラー・若者ケアラー相談窓口

専用電話番号:078−894−3989
月~金、9:30~16:30(祝日・年末年始のぞく)
LINEでの相談は以下から
https://page.line.me/?accountId=485rpzae

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