【特集】コロナ禍の生活困窮と県内社協の取り組み

ボランティアは集まった食材だけでなく、思いも詰めます(南あわじ市)

パントリーに来たときは、親子で楽しい体験も(南あわじ市)

書いた内容を見せ合いながら、良かったものには花丸をつけます(神戸市兵庫区)

雇用保険ってどんな制度?クイズ形式で参加を重視して進めます (神戸市兵庫区)

  新型コロナウイルスの影響を受け、解雇や離職、減収によって生活基盤が揺らぎ、生活に困窮する人が急増しました。社協では、約2年にわたって緊急的な資金ニーズに対応するための生活福祉資金特例貸付を実施し、セーフティネットの役割を果たしてきました。
 しかし、相談者を取り巻く課題は生活全般に及び、生活費の借入れだけでは生活再建が難しい場合も多く見られます。こういった課題に対し、社協では一人一人に寄り添う支援や地域での支え合いにつなげる活動を始めています。

長引くコロナ禍と浮かび上がった生活困窮

 令和2年3月25日から始まった特例貸付は、緊急小口資金と総合支援資金の2種類があり、県内でこれまでに16万2,804件、約773億円(令和4年1月末現在)利用されています(図表1)。この特例貸付は、開始以降、申請の受付期間や貸付期間の延長、総合支援資金再貸付の実施など制度変更が相次ぎ、1世帯あたり最大200万円の借入れが可能となりました。

図表 1

 社協ではいち早くニーズに応える形で貸付を通じた相談支援に取り組んできましたが、長引くコロナ禍で生活困窮は拡大し、以前から生活基盤が脆弱だった人は、より深刻な打撃を受けました。とりわけ、パートタイム労働者やひとり親世帯、若者、外国人住民などの暮らしに大きな影響を及ぼしました。その背景には、これらの人が各地域で生活困窮者としてこれまで把握されにくかったり、雇用保険など社会保障の仕組みで十分にカバーされていなかったことが挙げられます。
 特例貸付によって、社会的に不利な立場の人たちは社協や相談機関につながりにくく、必要な支援が届きにくかった状況が明らかになり、コロナ禍で新しい困窮層として認識されるようになりました。

“生活費”の相談から見えてきたもの

 特例貸付の利用にあたって寄せられる相談は、生活費という経済的な面だけでなく、仕事、健康・病気、教育のことなど生活全般にわたります。生活費の借入れだけでは生活の建て直しに不安が残る相談も多く、給付や就労支援、家計改善、事業再建、債務整理の支援など他の支援策が必要と考えられる場合もあります。

 これらに対し、社協では、例えば生活困窮者自立支援制度の自立相談支援機関や生活保護の相談窓口を「紹介」するだけでなく、「同行」して必要な支援につなげたり、食べるものにも困り、待ったなしの場合には緊急食糧支援などを行っています。また、相談を通じてキャッチしたニーズを、生活福祉資金の担当部署だけでなく、組織内や必要となる関係者・関係機関と共有・検討して、課題解決に向けた取り組みを進めています。

【事例1】「食」でつながった連携の輪(南あわじ市社協)

 南あわじ市での特例貸付の申請者は、飲食業、観光業(ホテル・旅館)、農業の従事者が中心で、観光業などに従事していた外国籍の方からの申請もありました。特例貸付を限度額まで借りた世帯から、なおも生活が厳しいとの相談が増える中、必要と思われても生活保護の申請につながりにくい状況もあります。それは、家や車の所有が資産と見なされ、生活保護の対象とされにくいためです。しかし実際は、持ち家でも住宅ローンで生活が苦しかったり、地域特性から保育所への送迎など日々の生活に車が不可欠で手放せないという場合もあります。
  これらの制度の狭間で苦しむ世帯を目の当たりにしていた社協に対し、地域の方からは「島内の大学生、専門学生のアルバイト収入が減っている」との相談も寄せられ、社協内部で支援策の検討、協議を進めました。
 その結果、地域の住民や団体が主となり食材循環の仕組みをつくるアイデアが生まれ、「食でつなぐ!南あわじの輪!パントリープロジェクト」を立ち上げることにしました。このプロジェクトには、既にフードドライブに取り組んでいたフードバンク淡路島のほか、消費者協会、市行政の関係課、社協の4者が参画し、食材循環の必要性を共有することから始め、食材循環の仕組み(図表2)と食材を提供する対象者の検討を行いました。

図表2

 ひとり親世帯、特例貸付利用世帯、住居確保給付金利用世帯、外国籍世帯、市内の大学・専門学校に通う学生を支援の対象と定め、令和3年3月末に第1回目を開催し、事前に申し込みのあった74世帯に世帯構成に応じて食材を配りました。利用者にはアンケートを実施し、単に食材を渡す・受け取るだけではなく、世帯の困りごとや今後必要となることを書き込めるようにしました。その後、参画団体間での振り返りや役割分担の見直しを図りつつ、同年8月には、新たにコープこうべもプロジェクトに参画。12月に開催した3回目には、過去のアンケートで寄せられた「コロナの影響で親子で参加できるイベントが減った」「楽しめる企画もあるとうれしい」との声から、クリスマスツリーの飾りつけのイベントを併催しました。当日は10組を超す親子が参加し、またプロジェクトにも109世帯もの申し込みがありました。
 このプロジェクトは回を重ねるうちに運営面で変化がみられました。一つは協力団体・企業が広がったことです。もう一つは、当初、集まった食材をボランティアが事前に袋詰めをし、当日は社協が運営をするスタイルから、先のアンケートで「ボランティアとして運営に協力したい」「小物づくりができるので役に立てたら」などの声を受け、ボランティアやプロジェクトメンバーも当日の運営に加わるようになったことです。
 現在は、プロジェクトを通じてつながった多機関の連携の「輪」を生かした次の展開を模索し始めています。

問題を深刻化させないために 〜社会的な孤立を防ぎ、支え合う〜

 このように社協では、特例貸付の相談支援を通じて、一人一人に寄り添う支援とともに、地域に課題を広げ、次のアクションにつなげる動きも進めています。これは、相談者が抱える問題を深刻化させないため、もしくは問題自体を未然に防ぐための取り組みといえます。
 ここでもう一つ事例を紹介します。コロナ禍で顕在化した課題の一つに「子どもの生きづらさ」があります。貧困や不登校、いじめ、ひきこもりなど問題はさまざまです。コロナ禍という社会を揺るがす出来事を経験した子どもたちの今に寄り添い、今後、社会の中で共に生きる力を育むための取り組みが求められています。

【事例2】次代を担う子どもの生きる力を育む(神戸市兵庫区社協)

 兵庫区内のある中学校。5~6時間目に講堂に集まった3年生の生徒たちが、「将来、自分や家族が生活に困らないためにどうしたらよいか」との問いに考え込んでいます。「お金」「健康」「愛」など生徒の考えは多様です。
 兵庫区社協では、トライやる・ウィークを終えた中学生を対象に、「社会の支え合いの仕組み」について学ぶプログラムを実施しています。求人票や給与明細の見方、ケガをしたとき、家を借りるときなど社会人になれば出くわす場面を取り上げ、映像や資料、ワークシートを用いて自分に置き換えて考えられるような問いかけを工夫しています。このプログラムでは、雇用保険、健康保険、年金の3つを軸に社会保障制度への理解を深め、自分自身も含めた支え合いの仕組みであることを学びます。

工夫が盛りだくさんの教材の作成には、
ご当地アイドルの協力も得ました

 プログラムの開発には、区保険年金医療課、年金事務所、ハローワーク、区社協が携わり、子どもたちへの伝え方、学習の進め方について中学校教員と検討を重ねました。社会保障というと難しいテーマのようですが、支え合いの仕組みの一つであり、これは地域生活でも同様です。そこに着目し、“支える–支えられる”という単一の関係ではなく“支え合う”大切さを伝えることが、「これからを生きる力」につながると考えたのです。
 そしてもう一つ、授業の最後に子どもたちに伝えることがあります。それは困ったときや迷ったとき、さらに言えば困りそうなときや迷いそうなときに「相談すること」の大切さです。授業では各種の相談機関を地図で確認し、視覚的に覚えておけるような工夫もしています。先の授業を終えた生徒からは、「何かあったときに一人で抱えず相談するようにしたい」との感想も寄せられました。

 新型コロナの影響で困窮している人の中には、これらの制度を知らないことで事態が深刻になったケースもあります。社会に出る前から、身近な大人の働く姿に接し、社会人になった自分をイメージして必要な知識や相談先などの情報を身につけることは非常に大切です。

※ 兵庫県では中学2年生を対象に平成10年度から実施。地域内の事業所で仕事にかかわる活動や体験を通じて「生きる力」を育むことを目的としている。

プログラムの教材が欲しい・活用したいという方は、兵庫区社協のホームページ「お問合せフォーム」からご連絡ください。
https://hyogoku-shakyo.or.jp/inquiry/ 

地域での包括的な支援体制づくりと地域力のアップに向けて

 紹介した二つの事例だけでなく、県内の社協では、相談者や地域状況に応じて、図表3のような多様な取り組みが広がっています。これは、従来、社協では生活福祉資金を支援策の一つとしてとらえ、相談者の生活のこれまで・いま・これからを見据えて相談支援に携わったことによるものです。

図表3

 今回の特例貸付では、数多くの相談に応じ、申請手続きの支援を行ってきましたが、特例貸付は制度上、貸付時に十分な聴き取りを行うことが難しく、相談者との関係構築が困難だったことも多くありました。大切にすべき「相談支援」を切り離す制度運用は、社協の強みを発揮しづらくさせ、これは国の事業評価でも指摘されているところです。生活に困窮する人とのつながり直しが求められる今、県内の社協では、相談記録の分析や訪問などによる貸付利用世帯へのアプローチも始めています。相談から見えた個々の課題を地域の課題として共有し、関係者と解決に向けた次の展開へ結びつけられるのも社協の強みです。
 コロナ禍のように、日常が一変する出来事にあって、私たちは改めて普段の暮らしを見つめ直す機会を得ました。そして、地域において新たに見えてきた課題やこれから必要な取り組みも明らかになりつつあり、これらを包括的な支援体制づくりへ結びつけることが大切です。今後も社協組織をあげて、地域内でつながりと連帯を育みながら、幅広い関係者・機関と共に生活困窮の課題に対応することが求められます。

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