【特集】コロナ禍での地域防災、災害ボランティアの取り組み

災害ボランティア連携訓練の様子(ひょうごボランタリープラザ)

行政、地域ボランティアなどの企画会議の様子(あしやNPOセンター)

武雄市災害ボランティアセンターでのボランティア受付の様子(佐賀県武雄市)

静岡県熱海市での土砂災害支援として支援品を贈呈する様子(ひょうごボランタリープラザ)

 私たちの生活を一変させた新型コロナウイルスは、自治会などの地域活動や平時の防災活動を停滞させました。また、災害ボランティアセンターでは、感染拡大を防ぐ観点から、ボランティアの募集を一定の地域に限定したり、事前登録を求めるなど、コロナ禍以前とは違う対応をせざるを得ませんでした。
 今回の特集では、コロナ禍でのNPOや社協の取り組みを紹介し、ウィズコロナを意識した地域防災と災害ボランティアについて考えます。

コロナ禍での地域防災活動と災害ボランティア

 令和2年の春以降、新型コロナウイルスの影響で、対面での避難訓練や防災セミナーなどの活動が減少し、地域の防災力の維持が課題となっています。また、被災者のニーズに応えるべく、以前ならば広くボランティアを募っていた大規模災害時にも、募集範囲を限定したり、事前登録を求めた影響で、ボランティアの確保自体も難しくなっています。
 このようにコロナ禍で防災活動や災害ボランティア活動は影響を受けていますが、令和元年の台風第19号(東日本台風)や令和2年7月豪雨のように、極端な気象現象による災害は頻発し、南海トラフ地震の発生も懸念されています。
 いつ、どこで大きな災害が起きてもおかしくありません。そのため、新型コロナウイルスとの共存の視点を持ちつつ、地域防災力の向上、災害ボランティア受け入れの門戸を広げ、全国からボランティアを募ることができる体制づくりを準備しておく必要があります。
 以下、取り組み事例について紹介します。

地域防災・社協の取り組み

【事例1】あしやNPOセンター(芦屋市)

 中間支援組織として平成19年から阪神地域を中心に活動している、あしやNPOセンター(以下、「センター」)は、大規模災害時に「公助」による対応に限界があることから、自分の命は自分で守る「自助」と、地域での支え合いを広げる「共助」といった平時の備えを大切にして活動しています。
 コロナ禍以前は、地域の防災力を高めるため、住民対象の防災セミナーを年に5回程度開催していましたが、新型コロナウイルスの影響で対面の開催ができなくなりました。
 コロナ禍でも活動を停滞させないようにと考えたセンターでは、まずは身近にある防災設備を知ってもらうこと、そして地域住民に避難所の開設・運営に積極的に関わってもらうことをねらいに、避難施設の解錠方法や防災倉庫にある機器や設備を紹介する動画制作を行いました。
 芦屋市では、阪神・淡路大震災を機に、指定避難所の学校・公園など42か所に防災倉庫が設けられ、資機材、水、食料などが備蓄されています。また、避難所となる小中学校の玄関付近にある防災ボックスは、地震時に自動で解錠され、近隣住民が自ら教室や体育館を開けて避難所として使用できる仕組みになっています。
 動画制作は、市、市教育委員会、市内の高校生や地元ボランティア団体などが企画から編集まで協働で取り組み、市内を拠点に活動する防災士にも協力を得て撮影された動画には、倉庫内の投光器や発電機、炊き出し用調理器具などの使い方を紹介する場面があります。動画のワンシーンには、出演する高校生からの「使い方に慣れておく必要がありますね」との問いに、防災士が「そうですね。そのためにも多くの方に地域の防災訓練に参加して欲しいです」と応える場面もあり、訓練も含めた地域活動の重要性が強調されています。
 映像は10分程度に編集され、インターネットの動画サイトで公開されていますが、市も周知に協力したことで閲覧数も伸びています。動画を見た市民からも「普段意識していなかった防災倉庫や設備を知ることができ、とても良かった」との声も聞かれる好評な取り組みになっています。撮影場所の調整を担った教育委員会は、「市内の小中学校にも動画が伝わるように働きかけ、防災教育に一層力を入れたい」と、今後の動画の活用を見据えています。

小学校の防災倉庫の前での撮影。さまざまな関係者が協力し合って動画が作られました。

 センターは、外国籍の住民の増加などを背景にした住民の入れ替わり、建物の建替えなどによる街並みの移り変わりなど、近年の地域の変化を感じています。その変化を踏まえながら大規模災害に備える必要があることから、定期的・継続的に時代に合った防災活動が欠かせないと考えています。その具体的な対応として、多文化共生の視点から、外国の人にも日頃の備えや災害時の対応を理解してもらえるようにと、英語版の動画を撮影中です。

【事例2】武雄市社協・災害ボランティアセンター(佐賀県)

 令和3年8月14日の大雨で、佐賀県武雄市では広範囲で浸水被害が発生し、床上浸水が1,183戸にも上りました。同市では令和元年にも大雨の被害を受けましたが、今回の被害はさらに深刻でした。
 これを受けて武雄市社協は、市や佐賀県社協と協議し、8月17日に災害ボランティアセンター(以下、「災害VC」)を設置。当初は九州全体からのボランティアの受け入れを検討しましたが、新型コロナウイルスの感染拡大(第5波)と、隣接する福岡県での緊急事態宣言の発令を踏まえ、受け入れを県内に限定しました。
 ただし、募集を県内に限っても、人流が生じることに変わりはなく、感染予防に最大限の注意を払うことが必要でした。
 これを踏まえた結果、災害ボランティアの受け入れに際し、活動希望者全員に、市で備蓄していた新型コロナウイルスの検査キットを使った抗原検査を実施することに決定しました。検査方法としては、PCR検査が広く知られていますが、比較的取り扱い易く、検査結果も短時間で出ることから、災害VCでは抗原検査を採用する判断になりました。【図表1参照】
 ここまでは順調に調整を進めましたが、マンパワーの面で課題が生じます。医療従事者以外のスタッフのみで安全に検査を実施するのは困難だったからです。そこで市社協は、理学療法士として長年勤務した経験を持つ豊村貴司(とよむら たかし)市議会議員に助言と仲介を要請。運営スタッフとして県の理学療法士会のバックアップを得ながら、前例がない災害VCにおける抗原検査の導入を急ピッチで進めました。
 作業工程や人員配置を工夫して「検体採取→検査→判定」をシステマチックに実施する体制を構築し、8月21日のボランティアの受入れ開始から9月末の災害VC閉鎖までに、延べ1,443名のボランティアが被災者支援の活動を展開しました。

【図表1】PCR検査と抗原検査の比較表
(ひょうごボランタリープラザ作成)

災害から1週間で、抗原検査の実施も含めた災害VCの立ち上げを実現
(写真提供:武雄市社協)

 結果として抗原検査による陽性者はゼロでしたが、この間の検査の実施は、ボランティアやスタッフが安心して活動できる環境整備に貢献しました。それと同時に、ボランティアを受け入れ、支援を受ける被災者にも安心をもたらし、ボランティアと被災者の円滑なマッチングにつながりました。
 ボランティアの募集を県内に限定した影響で、延べ人数比で、ボランティアの人数は令和元年水害の約4分の1でしたが、最終的には全被災者のニーズに対応でき、スムーズに支援活動を終えることができました。
 武雄市社協の先駆的な取り組みは、ウィズコロナでの災害VCの運営のヒントとして非常に参考となります。

ひょうごボランタリープラザの災害対応

 今年度を振り返ると、7月1日からの大雨により静岡県熱海市では大規模な土砂崩れが発生したほか、8月の大雨では、事例2で紹介した佐賀県を含む九州地方を中心に20県に及ぶ広い範囲が被災。11市区町社協の災害VCなどでボランティアが活動しました。
 プラザでは、大雨や台風の被害を受けた各地に調査隊を派遣し、7月には静岡県熱海市で、8月には佐賀県で、コロナ禍における災害ボランティアの状況などについて調査を行いました。
 この調査で明らかになったことを生かす方法を模索した結果、武雄市社協の災害VCでの抗原検査の取り組みを参考に、検査の実施に向けた準備事項や留意点などをまとめた「災害ボランティア受入時の新型コロナウイルス感染有無のスクリーニング手法について」を作成しました。
 また12月には、災害救援に取り組む各種団体、NPO、行政、社協などの関係者と共に「大規模災害を想定した災害ボランティア連携訓練」を実施。コロナ禍での大規模災害を想定しながら、要介護状態の高齢者や障害者など要配慮者に対する支援を中心テーマに据え、講義と演習を交えた実践的な訓練を行いました。

 プラザでは、武雄市社協の取り組みを参考に、コロナ禍での災害VCでの抗原検査(事前準備や留意点等)について取りまとめました。

冊子はPDF形式でこちらからダウンロードできます。
https://www.hyogo-vplaza.jp/research/research02/entry-127816.html 

コロナ禍での取り組みは柔軟な対応で

 今後発生が想定される「南海トラフ地震」など、大規模かつ広範囲な被害を及ぼす災害では、県外からの支援が届かないことも想定されます。実際に昨年度以降、多くの災害VCでは、新型コロナウイルスの影響でボランティアの受け入れを県内や市内など一定の地域に限定する動きが広がりました。
 そのような中、紹介した武雄市社協の事例は、感染症の拡大リスクを可能な限り抑えながら、活動する側も、ボランティアを受け入れる被災者も安心できる環境を整え、被災者のニーズに応えた一つのモデルといえます。
 また、あしやNPOセンターの事例では、地域住民を対象とした防災セミナーを従来の対面型から動画配信方式に切り替え、地域の防災力を高める活動を続けた事例です。動画を作る過程で、高校生や教育委員会などとの協働も生まれ、今では「多文化共生」という地域の実情を踏まえた活動にも発展させるなど、地域の防災力をアップデートし続けています。
 紹介した二つの事例に共通するポイントは、新型コロナウイルス感染拡大を抑える工夫をし、柔軟な手法を取り入れて活動していることです。つまり、以前から大切にしてきた目的はそのままに、コロナ禍に対応する手法は柔軟に、というスタンスで実践を進めているとも言えます。

 災害は新型コロナウイルスの感染拡大の状況とは無関係にやってきます。30年以内に70~80%の確率で発生するとされる南海トラフ地震などの大規模災害を想定し、今一度、コロナ禍でも取り組める日常の防災活動を幅広い関係者と模索することが大切です。また、災害VCを立ち上げる緊急時を念頭に、感染症の拡大防止を図る対策を加えるなど、「災害対応マニュアル」を見直すことも求められます。
 新しい年を迎えたこの機会に、普段からの地域の防災活動と、大規模災害時にボランティアを広く募りながら安心して活動できる体制づくりを、あらためて検討することが必要ではないでしょうか。

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