【特集】一人一人に寄り添う民生委員 ~民生委員を支える民児協の活動~

高齢者宅への訪問活動(宝塚市・市提供)
心配ごと相談の様子(猪名川町)
配食サービスの実施(佐用町)
地域での見守り体制を話し合う(猪名川町)

 兵庫県では7,313人(神戸市除く)の民生委員が各地域で活動しています。(令和5年4月時点)
 民生委員は地域の一員として住民に関わり、身近な相談相手となり、専門機関とのつなぎ役を担う地域に欠かせない存在です。
 今回の特集では、民生委員が地域で果たしている役割や民生委員の活動を支える民児協の活動についてお伝えします。

※本稿では民生委員・児童委員を「民生委員」、民生委員児童委員協議会を「民児協」の略称で記載しています。

民生委員の役割

 民生委員は、大正6年に岡山県で誕生した「済世顧問制度」を始まりとします。翌年には大阪府で「方面委員制度」が発足し、その後全国に普及しました。昭和21年、民生委員令の公布により名称が現在の「民生委員」と改められました。
 民生委員は、厚生労働大臣が委嘱する特別職(非常勤)の地方公務員で、児童福祉法で定める児童委員を兼ねています。地域福祉の担い手として、住民の身近な相談相手となり、その生活課題に寄り添い必要な助言や情報提供にあたるなど、地域全体の福祉増進のために活動しています。住民と行政や専門機関とのつなぎ役として、活動は多岐にわたります。(図1)

図1 民生委員の7つのはたらき(全民児連整理)

 兵庫県民生委員児童委員連合会の大江秀謙会長に、民生委員の役割についてお話を伺いました。

民生委員の役割について語る大江秀謙会長

 民生委員は民生委員児童委員信条(図2)の中にもある「隣人愛」の精神を大切にして、地域の中で気になる世帯を把握し、自治会などと連携して対象世帯を見守り、必要に応じて関係機関につなぐ役割を担ってきました。
  また、生活に困窮する世帯への支援として社協が行う生活福祉資金貸付制度は、全国の民生委員が声を上げ、経済的支援と相談支援を共に行う世帯更生運動を提唱したことから始まりました。行政や社協が行うさまざまな支援策と住民の困りごとを結び付け、必要な支援を届けることも民生委員の大きな役割です。
 地域を取り巻く状況に目を向けると、かつては「向こう三軒両隣」の関係がありましたが、近年は個人情報保護の意識が強くなり、見守りに必要な情報の取り扱いにも慎重な対応が求められます。民生委員のなり手不足の課題もあります。コロナ禍で民生委員活動の制限も一部ありましたが、そのような逆境もオンラインやICTを活用するなど時代の変化に合わせて乗り越えてきました。各地域で民児協の取り組みを充実させ、関係機関とより一層連携を強化していきたいと考えています。
 今年度は子ども家庭庁ができて、「こどもまんなか社会」が打ち出され、ひきこもりやヤングケアラーへの関心が社会的に高まっています。住民に身近な相談窓口として民生委員がいることの周知がもっと必要だと感じます。
 一方で、民生委員は「何でも屋」ではありません。「誰ひとり見逃さない」を合言葉に専門機関につなぐ役割だと知って欲しいです。
 周りから頼りにされた時の「ありがとう」の言葉が私たちの励みになります。全てのお願いごとに応えられないこともありますが、その時は「ごめんね」と素直に言える民生委員でありたいです。

図2 民生委員児童委員信条

 大きな役割を担っている民生委員は個人としての活動と合わせて、一定区域ごとに民児協を作り、組織としても活動をしています。民児協は、民生委員一人一人の活動を組織として支えています。そして、関係機関との連絡調整や研修会の実施、民生委員についての広報などさまざまな活動を行います。また、複数の民児協が連合して、市区や都道府県、全国組織が置かれています。
 ここからは、県内の民児協で力を入れている取り組みを各民児協の会長に伺いました。

活動事例① 宝塚市

 宝塚市民生委員・児童委員連合会(以下「宝塚市民児連」)は、市内7地区の民児協で構成され、312人の民生委員が活動しています。社協地区センターや地域包括支援センター、委託相談支援事業所も同一エリアに拠点があり、社協と民児協は生活相談や福祉活動に取り組むなど、日頃から連携・協力して福祉のまちづくりを進めています。宝塚市民児連では、以下の3つを重点に据えて活動しています。
  1つ目は災害時要援護者支援です。平成7年の阪神淡路大震災で精神障害のある子の親が周囲に気を遣い避難所に行くのをためらった苦い経験から始まりました。市から提供を受けた名簿をもとに高齢・障害世帯や医療的ケアが必要な世帯を一軒ずつ訪ね、世帯状況を把握しています。また、元民生委員が中心となり連携して避難支援組織を立ち上げるなど、地区ごとに災害時の支援体制を整備しています。
 宝塚市民児連の福住美壽会長が活動で大切にしている言葉は「みんなで助かる」。民生委員だけが情報を把握して有事に動くのではなく、地域住民がお互い顔見知りになり、いざという時に「助けて」と言える関係性が重要だと語ります。
  2つ目は欠員解消対策委員会の立ち上げです。任期満了に伴う民生委員交代の際、欠員が補充できなかったため、民生委員自身がつながりのある人に声を掛け、担い手の確保に努めています。結果として、20代・30代の若い世代も増えるなど、目に見える成果が出ています。
 3つ目はフードドライブ活動です。家庭などで余った食品を集めて、学校や行政の相談窓口に届けています。利用できる人は生活困窮者に限定しておらず、誰でも必要な時に支援につながる関係性を日頃から築くことが重要と考えています。

フードドライブでの仕分け作業と提供された物品(宝塚市)

活動事例② 猪名川町

 猪名川町民児協では、町内5地区・62人の民生委員が活動しています。
 コロナ禍では、地域の人との何気ない会話の機会が減ってしまい、訪問も難しい状況でした。地区民児協の役員同士、SNSで連絡を取り合うとともに、非接触型の安否確認を実施しました。例えば、訪問カードや季節のお便りを投函して、心理的なつながりを切らさないようにしました。直接会えずとも、手書きの文書は気持ちが伝わり感謝されたと猪名川町民児協の堀口初恵会長は当時を振り返ります。
 今年度は、一泊視察研修を3年ぶりに開催することができました。苦労している面だけでなく、やりがいや喜びも共有できることが、民生委員自身の孤立防止にもなります。
 猪名川町では、地域包括支援センター職員が近所付き合いの希薄な高齢者に関わる時には、民生委員が一緒に訪問して、継続した見守りを続けます。また、月3回、社協の心配ごと相談員として民生委員が住民からの相談にあたり、同じ地域住民の視点で、一人一人の思いを受け止め、必要に応じて専門機関などを紹介します。
 ある地区では、行方不明者の捜索訓練を自治会、まちづくり協議会、地区民児協合同で実施します。最近では、見守り対象者のうち比較的元気な高齢者にも参加してもらいました。なかには昔、介護職の経験があり認知症の人への声掛けの仕方を周りに教えてくれる人もいました。民生委員以外にも地域で頼れる人や見守りの目を増やすことが大切です。
 猪名川町民児協では「ゆっくりじっくり慌てずに」の姿勢を大切に、これからも地に足をつけた活動に取り組んでいきます。

行方不明者の捜索訓練の様子(猪名川町)

これからの民児協の活動

 以上の活動事例を踏まえ、民生委員を支えるこれからの民児協の活動を整理しました。

①民生委員活動の周知・広報の強化

 民生委員は、地域住民からの身近な相談役であり、一人暮らし高齢者の見守りや、災害時の対応や防犯活動など、多くの役割を期待されています。
 全国民生委員・児童委員連合会(以下「全民児連」)が令和3年度に実施した意識調査では、民生委員について「知っている」と回答した割合は6割を超える(64・0%)ものの、「役割や活動内容まで知っている」は5・4%の回答に留まります。もっと民生委員の活動内容について知ってもらうためにも、社協や行政などとも協力しながら広報・啓発をさらに強化する必要があると考えられます。

②活動を途切れさせない工夫

 全民児連の令和4年度調査では、コロナ禍での活動の課題として「感染を心配して、活動が消極的になりやすい」と78・8%が回答。次いで「研修、知識を習得する機会が減少」と72・0%が回答しました。また、民児協としての「研修」および「地域福祉活動」を約2割が「全くできていない」と回答しており、コロナ禍が民生委員活動に大きな影響を及ぼしたことを表しています。
 一方、オンラインを活用した定例会や研修の実施、猪名川町民児協のようにSNSで役員同士の連絡を日頃から取るなど、活動の工夫や新たな実践に挑戦した民児協もありました。

③民生委員を支える仕組みづくり

  民生委員の任期は3年で再任できることになっていますが、活動の難しさや負担感から委員の在任期間は短縮しており、全国的には民生委員の充足率は約94%(令和5年1月厚労省発表)で、欠員は年々増加しています。
 本来は、行政や地域全体で考える課題ですが、宝塚市民児連のように、現役世代が活動に関わる機会を増やすことは、幅広い世代が地域の福祉課題への関心を高めるきっかけとなり、地域福祉活動への取り組みのヒントになるかもしれません。

 民生委員、そして民児協がこれまで果たしてきた役割は、地域でのつながりづくりに欠かせない重要なものです。時代に合わせて形を変えながらも、支援の輪を途切れさせることなく活動を続けてきました。これまで大切にしてきた住民に寄り添った活動は、時代を経ても変わらない民生委員の存在意義だと言えます。
 今後も、民生委員活動の継承を見据えて、若い世代や学生が活動に興味を持てる機会を増やすなど、長い目で取り組みを続けることが更なる発展と充実につながります。

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