2025年1-2月号
災害ボランティアが一般化する契機となった阪神・淡路大震災から、今年で30年となります。
今回の特集では、ひょうごボランタリープラザの元所長で神戸大学・兵庫県立大学名誉教授の室﨑益輝氏と、ボランティア活動の実践に広く携わる被災地NGO恊働センター代表の頼政良太氏に、この30年間の災害ボランティア活動の歩みやボランティア活動のこれからについてお話を伺いました。
毎年のように発生する地震、大雨等の自然災害。現在、大規模災害の発生時には、物資を届けたり、土砂を掻き出したり、被災者が一息つける居場所をつくったりと、全国からボランティアが被災地に駆けつけ、さまざまな活動が展開されるようになりました。この災害ボランティア活動は、平成7年の阪神・淡路大震災を機に全国に広がり、同年は「ボランティア元年」と呼ばれるようになりました。
阪神・淡路大震災から30年という節目として災害ボランティア活動を振り返るにあたり、神戸大学・兵庫県立大学名誉教授の室﨑益輝氏にお話を伺いました。
私が災害ボランティア活動と出会ったのは昭和47年9月の京都市を流れる音羽川が氾濫した水害でした。その水害では、友人の実家が泥まみれになったので現場に駆けつけ、泥だし等のボランティアをしました。当時は「ボランティア」という言葉も一般的ではありませんでしたが、地元の学生がたくさん来て支援活動を行っていたことを思い出します。そこには、今で言うボランティア活動の素地が確かにありました。
その後、阪神・淡路大震災が起こり、多くの方々がボランティアとして被災地に駆けつけてくれました。その頃の私は研究者として災害と関わる立場であり、復興や防災に役立てられるよう、震災の記録を残すのが使命だと考え、県内外から「被災者のために」と駆け付けた2000人もの学生と共に約50万棟の建物被害の実態調査を行いました。行政による調査ではなく、学生が現地に足を運びボランティアの立場で遺族や被災者の声を丁寧に聞き取ったからこそ、被災者の協力が得られ、貴重なデータを集めることができたと感じています。
また、被災地の研究者として、「被災者には尽くすけど、自分の為にはやらない」ことを信条に、ボランティアの学生たちに、「この調査で得た知識で論文は書いてはいけない」と指示し、集めたデータは誰でも自由に使えるようにしました。この調査活動を含め、阪神・淡路大震災では多くの方が被災地の復興・復旧のためにさまざまなボランタリーな活動をする動きがありました。
被災地の復興では、市民が主人公となることが重要です。阪神・淡路大震災では現場から「被災者を助けよう」という市民運動やボランティアの動きが自然発生的に生まれました。そして、市民運動が成熟し、NPOやボランティア団体に組織化されて現在も活躍しています。ひょうごボランタリープラザは、これらの組織が協働する場として生まれました。
震災から30年が経ち、少子高齢化など社会情勢の変化に伴って、ボランティアの捉え方も大きく変化し、ボランティアに関わるのは特定の人たちに留まっている印象があります。震災当時は「困っている人がいたら助けよう」と自発的に動く人も多かったのですが、震災の経験が無い人にそれをどう伝えるかが難しいところです。
また、時代の流れとともに、一人一人の生活に余裕がない社会になっていることもボランティア文化が形骸化しつつある一因だと思います。ボランティアとして被災地に向かうには、お金はもちろん時間も必要です。そのため、財政的な支援や社会全体の理解などが重要ですが、例えば、学生がボランティアに行くことを応援している学校は少数にとどまります。ボランティア部やサークル活動など、積極的に活動している団体もありますが、多くの学校は、授業が最優先となり、ボランティア活動を禁止している学校さえあるのが現状です。
さらに、コロナ禍では被災地から「ボランティアには来ないでください」と言われ、心情的にもやもやしていたものが、「行かなくて良い」という理由付けになったこと、体制が十分に整備されず、ボランティアの受け入れに消極的な被災地があることも、ボランティア文化の形骸化に拍車をかけているのかもしれません。
災害ボランティアを取り巻く環境は変化してきましたが、災害の頻発化・激甚化、南海トラフ巨大地震の切迫性が高まる中、災害ボランティアへの期待は高まりつつあります。
ボランティアに参加しやすい環境整備といった支援側に関することはもとより、受入体制のあり方や整備の問題も数多くあります。例えば、「災害ボランティアセンターの設置は、全国一律に社協だけに任せて良いのか」「被災地で活躍するボランティア団体などの連携は誰が進めるべきか」「連携を進める上での財源や権限はどうするのか」など、検討すべき課題は数多くあります。
阪神・淡路大震災から30年が経過し、社会全体が「一人一人が助け合おう」という意識を育み、ボランティア文化をどのように作り直すかということが改めて私たちに問われているのです。
社会情勢に伴って人々の意識も変化し、ボランティア活動は、以前よりハードルが高いものと感じる人が増えていきました。しかし、その中でもボランティア活動と出会い、実践を重ねている人がいます。
学生時代のボランティア活動を機に、現在も被災地NGO恊働センターの代表として、被災地支援に邁進されている頼政良太氏にボランティア活動の魅力を語っていただきました。
県外から神戸の大学に入学し、色々なサークルの歓迎会に参加する中で「ご飯おごってあげる」と誘われたのが、後に所属する「神戸大学学生震災救援隊」でした。入学直前、平成19年の能登半島地震が発生していたこともあり、「仮設住宅で足湯ボランティアをしないか」と誘われ、参加したのがボランティア活動の入口でした。
初回のボランティアでは、家が斜めになっている災害現場に衝撃を受けるばかりでしたが、2回目には現地の方が私の顔を覚えてくれていて、「あんたにまた足湯をやってもらいたい」と言ってもらえたことが嬉しく、活動を続ける原動力になりました。何度か参加するうちに、現地の方が足湯に浸かり、仕事のことや家族のことなどを語ってくださることがあり、「今、自分はこの人の人生に触れている」と感じたのを覚えています。
ボランティアではいろんな人と出会い、人生に触れて、それが自分の成長にもなります。私にとっては面白さ、楽しさがボランティア活動の魅力となっていて、今日まで活動を続けています。
ボランティア活動が契機となり、今でもつながるご縁もあります。能登半島での足湯ボランティアをきっかけに、七尾市中島町の集落で、平成21年から地域のお祭りにボランティアとして参加してきました。そのつながりのおかげで、令和6年の能登半島地震では速やかな支援を行うことができました。
元々、地域内での人のつながりが強い七尾市中島町では、発災後、すぐに集落の中で困っている人がいないかの把握をされていました。その中で、行政機関への「罹災証明書」の申請について、何をすればいいのかわからないとの声がありました。そこで、私たちボランティアは集落の方々と話し合い、集落の方が地域の分の申請書をまとめて行政機関から受け取り、一軒ずつ配布する動きが生まれました。これは地域のつながりが強いからこそできたものだと思います。
私の経験で実感しているのは、「地域のつながりは防災にもつながる」ということです。中島町の例のように、信頼関係ができていることで支援にスムーズに入ることができるという点もありますし、何より、「切り捨てられる人をつくらない」ことにつながります。防災や災害対策と言うと身構えてしまいますが、平時から緩く自然体でつながっていれば、「誰かがあの人のことを知っている、気に掛けている」ことになり、災害時の支援にもつながります。現在、さまざまな地域でボランティアを続けている人にも、是非、今ある「つながり」を大切にしていただきたいです。
ボランティア活動を通して得た経験は、今の私の仕事にもつながり、人生の財産になっています。現場には、自分で見聞きして初めてわかることがたくさんあります。
ボランティアと聞くと、相手のための自己犠牲や奉仕活動というイメージを持つ方もいると思いますが、私は助け合いの延長のように感じています。難しく考えすぎずに一度参加してみてはいかがでしょうか。私自身、ボランティア活動を続けてこられたのは人との出会いが楽しいし、自分の知らない世界をもっと知りたいという理由からでした。
ボランティア活動は、相手に喜んでもらおうと思ってやっていることが、自分の成長につながることもあります。私も活動を始めた当初は、上手くいかないこともありましたが、続けるうちに、現地の方が私の成長を喜んでくれているということがありました。ボランティア活動に興味のある方は、まずは現地に足を運び、やりながら学ぶことが大切だと思います。
阪神・淡路大震災以降、市民活動の協働の場として生まれたひょうごボランタリープラザでは、平時から県内の社協やボランティア団体の連携・交流・ネットワーク強化や、県内外の被災地で、ボランティア活動を行うための支援を行っています。
災害時において、支援関係機関等がそれぞれの持つ特性・資源・能力を生かした迅速かつ効果的な支援体制を構築できるよう、平時からの意見・情報交換、課題の検討を行い、相互ネットワークの強化に取り組みます。
行政、社協、NPO等の三者間での連携した支援活動に向けて、平時からの連携や体制の構築・強化に取り組みます。
ふるさとひょうご寄附金を財源として、県内のグループ・団体が被災地で行う災害ボランティア活動に対して支援します。
●大規模災害ボランティア活動応援プロジェクト
大規模災害時に被災地において災害ボランティア活動を行う5人以上の団体・グループを対象に交通費・宿泊費の一部を助成(上限20万円)
●ひょうご若者被災地応援プロジェクト
ひょうごの若者(15歳以上~35歳未満)が「被災者生活再建支援制度」の適用を受けた被災地において継続的な復興支援を行う活動経費の一部を助成(上限20万円)
若者の力を、県内外の災害発生時に生かすことができるよう、「ひょうご若者ボランティア隊」を設置して、広く隊員を募集しています。ご興味のある方は是非ご登録ください。
各詳細はプラザホームページ「コラボネットひょうご」をご覧ください。
https://www.hyogo-vplaza.jp