【特集】地域福祉活動の再開・継続に向けた取り組み

手作り弁当を一人暮らしの高齢者へお届けする友愛訪問(宍粟市)

中止されたサロンに代わって、友愛訪問として風鈴をお届け(養父市)

コロナ禍でも住民同士の支え合いは続く。庭木の手入れの様子(伊丹市)

子どもたちとのマスク作り(明石市)

 昨年4月の緊急事態宣言の発出から1年半。“新しい生活様式”が定着し、ワクチンの接種も広がりつつありますが、新型コロナウイルス感染症の再拡大に伴い、依然として地域の集い場や助け合い活動の全面的な再開は厳しい状況です。
 そのような中、感染予防に留意した上で、各地では活動の再開・継続に向けた模索が続いています。
 今回の特集では、コロナ禍でもさまざまな工夫を取り入れて続けられている地域福祉活動を紹介し、各地の活動につながる取り組みのポイントを考えます。

長期化するコロナ禍での地域福祉活動の動向

 昨年、初の緊急事態宣言が出された際、「通いの場」など地域での集会に対しての自粛ムードが広がりました。飲食を伴うふれあい・いきいきサロンなどは一斉に休止となり、高齢者などの心身の虚弱や社会的孤立を懸念する声も上がりました。
 その後、一旦は感染症対策を講じて活動を再開する地域も広がりましたが、緊急事態宣言の発出が繰り返された結果、通いの場に限らず、地域の会合や季節行事、各種講演会など、人が一堂に会する機会の多くが縮小・中止を余儀なくされています。

コロナ禍での地域活動を発信するニュースレター「兵庫えんだより」

 県社協では、県内の生活支援コーディネーターや住民などが、コロナ禍でも創意工夫をして取り組む生活支援・地域活動を広く共有するため、ニュースレター「兵庫えんだより」を発行してきました。
 現在に至るまで、人が集まること自体が難しい状況が続きますが、コロナ禍でもできる活動を考えて実行に移す一助にしようと、県内には活動のガイドラインづくりや情報発信に取り組む地域があります。また、地域で孤立する人を見落とさないようにと、創意工夫を凝らして住民同士の支え合い活動や相談窓口の開設、訪問型の見守りなどを続ける事例もあります。
 さまざまな活動が制限される中でも、つながりを途切れさせないようにと“今できること”に取り組む住民、ボランティア、社協の試みを以下に紹介します。

活動再開・継続に向けたさまざまな動き

事例1 地域活動の再開に向けた社協の支援(宍粟市・養父市)

 宍粟市では、新型コロナウイルスの感染拡大によって地域のあらゆる活動が止まりました。住民が主体となった活動を支える社協として、この状況でできることを検討し、今年4月に「“新しい”地域福祉活動ガイドブック」を発行しました。
 ガイドブックには、地域福祉活動の再開に向けた感染予防の基本的な考え方やルール、新しいつながり方のアイデアや工夫を掲載しています。これを市内の全自治会長に配付したほか、福祉委員の研修会や民生委員・児童委員の定例会でも活用し、深刻化している社会的孤立への認識を共有しながら必要とされる「見守り」や「新たなつながりづくり」を共に考えました。
 また、「コロナ禍でできること事例集」の作成によって、各地区で工夫しながら進めている活動の情報発信に努めたほか、感染予防備品の貸出を始めるなどの取り組みを進め、活動の再開を目指す地域を応援しています。
 市社協地域福祉課長の波多野好則さんは、「住民や活動者が安心して地域活動を再開できるよう情報提供を重ね、それぞれのペースで進めていることを支えるのが社協の役割ではないでしょうか」と語ります。

 一方、養父市では、区長、民生委員・児童委員、福祉委員などのメンバーで集まる「福祉連絡会」を継続しています。自治会エリアでの活動として、福祉防災マップの更新、コロナ禍で地域に生じた困りごとの共有、コロナ禍でもできる活動についてのアイデア出しをしながら、次につながる取り組みを探っています。
 例えば関宮区上本町の福祉連絡会では、中止になったふれあい喫茶に代わり、友愛訪問を兼ねて全戸に風鈴を届ける活動を進めました。風鈴の音を聞きながら、久しぶりに住民同士の話も弾んだという嬉しい声も聞こえています。
 また、市社協では、工夫を重ねた地域での取り組みを周知し、他の地域での話し合いのきっかけとなるよう、福祉連絡会と社協をつなぐ情報誌『ねっとわ〜く※1』を復刻させ、情報の発信に力を入れています。
 地域福祉活動の再開や継続に向けた取り組みを、社協としては無理に推し進めようとはしません。あくまでも住民自らが再開させようとする機運が高まるまで、住民の声に耳を傾け、寄り添う姿勢を大切にしています。

※1:『ねっとわ〜く』とは
福祉委員と福祉連絡会の設置を目指し、平成5年度~平成23年度に、福祉連絡会の取り組みの情報発信や福祉委員の役割などを記載し、発行していた情報誌

事例2 コロナ禍だからこそ住民の声を聴き続ける(伊丹市)

 伊丹市では、住民同士の支え合いの仕組みとして、全17校区中11の校区で「地区ボランティアセンター」が開設されています。その一つ、稲小地区助けあいセンターを拠点に活動するグループ、稲小地区ボランティア手伝い隊(以下、「手伝い隊」)があります。
 手伝い隊の特徴は、地域のつながりを生かした調整をするため、ボランティア相談窓口で受けた電話相談を、一旦地域住民でもある「ボランティアコーディネーター」(以下「コーディネーター」)につなぎ、相談者と顔を合わせることです。登録ボランティア全34名のうち9名のコーディネーターが、他のボランティアと協力して、困りごとや悩みごとに寄り添って活動しています。
 手伝い隊は、日頃から稲野小学校地区自治協議会(以下、「自治協」)と連携し、住民同士が交流する行事などにも参加してきました。このような機会も含めて、手伝い隊のメンバーは、地域の異変や困りごとを抱える人の早期発見に努めてきましたが、コロナ禍で行事の縮小や中止が相次ぎ、住民同士のつながりの希薄化や孤立化を懸念していました。
 そこで、手伝い隊では「コロナ禍だからこそ住民の声を聴こう」と、相談窓口を閉ざすことなく開け続け、困りごとの支援活動を地道に続けてきました。

丁寧にニーズを聴く、手伝い隊の受付ボランティアのみなさん

 コロナ禍以前に開催していたボランティア全体の連絡会は、多人数での集まりになるため中止せざるを得ませんでしたが、コーディネーターの連絡会は継続し、実際に受けた相談事例を検討しながら、手伝い隊のキーパーソンであるコーディネーターが孤立しないようにしてきました。
 同校区を担当する市社協のコミュニティワーカーは「連絡会はコーディネーターの悩みや思いを共有する重要な機会。社協としては、手伝い隊のみなさんが主体的に活動できるように意識して関わってきました」と振り返ります。
 また、手伝い隊サブリーダーでコーディネーターを担う松井万里子さんは「今だからこそできることがないか知恵を出し合うことが大切」と連絡会の意義を強調します。ちょっとした困りごと以外にも、コロナ禍で心身の状態に影響が生じたと思われるケースの相談を受けることもあり、連絡会は、問題の把握や傾聴の大切さを再確認する機会にもなっています。
 コロナ禍から1年半。手伝い隊リーダーで自治協の福祉部長を務める佐々木道治さんは「地域での福祉の行事やイベントは、普段顔を合わせるだけの住民同士が、お互いを知り合う大切な機会。身近な地域での住民同士の交流機会を少しでも再開できるようにしていきたいです」と語ります。
 手伝い隊は、感染対策をした上で今できることを地道に重ね、これからも地域活動の再開に向けて模索と挑戦を続けます。

事例3 コロナ禍でもできる活動を探し続けて(明石市)

 ボランティア団体として平成3年から活動しているボランティアはなぞの(以下、「はなぞの」)では、一人暮らしの高齢者などの自宅を訪ねる「あったか訪問」、通院への同行などちょっとした困りごとに対応する「ヘルパータレント事業」、高齢者や子ども、障害者などが交流できる地域食堂などの地域活動を行っています。このコロナ禍でも、ボランティア同士で話し合い、感染対策を徹底して可能な活動を続けてきました。
 また、はなぞのが運営する常設の拠点に、ボランティアメンバーによる介護や生活の相談窓口を設けていることから、「困りごとを聴き続けよう」と、窓口を開け続けました。
 この間、外出の自粛要請や商店街の多くを占める飲食店の休業で地域には閉塞感が漂い、先々の暮らしへの不安の声が上がっていました。それを踏まえ、誰をも孤立させず、つながり続けることの重要性を感じたボランティアたちは、一つ一つの相談に応じて住民に寄り添い続けました。集まりの場に来られない人や連絡が取れない人には、アウトリーチで対応。電話や戸別訪問による見守り活動を通して、「気に掛けている」という思いを伝え続けました。
 また、ワクチン接種の予約が始まった時期には、手続きに困っていた高齢者をサポートするなど、自分たちができることを探し、日々の活動に反映させています。
 代表を務める松本茂子さんは、「大切なのは、地域のつながりを切らさないこと。私たちと地域の間には、顔が思い浮かぶ関係性があるからこそ、気に掛けているという思いを電話や訪問という行動に移せました。今後もできることを探し、取り組み続けたいです」と笑顔で語ります。

「はなぞの」は、地域の方が訪ねやすい、 商店街のほど近くに拠点を置いて活動しています

再び笑顔で集える日に向けて

今できることから一つずつ取り組む

 これまで紹介した事例から、コロナ禍でも地域のつながりを切らさないために、自らも不安を抱えながら「今できること」に取り組んできた住民や社協の思いが見えてきました。
 特に、伊丹市や明石市の事例では、どんな状況でも「気に掛けている」という素直な気持ちを言葉にして伝え、訪問などの具体的な行動につなげてきました。また、「できないからあきらめる」のではなく、「どうすればできるか」をメンバー同士で模索して活動を豊かにしてきた様子もうかがえました。
 一方で、地域福祉活動の再開・継続に向けては、各地域の実情やペースに合わせることも求められ、感染への不安や集まることへの葛藤を抱える人への配慮も必要不可欠です。
 そして最も重要なことは、自分たちが暮らす地域をどうしたいか、そのためにどんな手段があるのかといった「話し合い」を途切れさせないことです。社協をはじめとする専門機関は、地域住民に寄り添いながら、自主的な活動を進めやすいよう支援することも必要です。

気に掛け合うつながりをつむぎ直す

 コロナ禍が長引く中、これまで育まれてきた地域のつながりは危機にさらされてきました。
 しかし、危機にさらされた分だけ、今、つながりの重要性が改めて認識されています。
 地域における支え合いは、住民同士が日常生活や活動を通して交わることで生まれる「気に掛け合う」関係からはじまります。
 各地では、地域共生社会の実現やコロナ禍への対応を念頭に、さまざまな取り組みを進めています。それらの取り組みの基盤としても、身近なつながりをつむぎ直すことが、また笑って集まれる日に向けて今できることではないでしょうか。

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