【特集②】コロナ禍に立ち向かう地域の子育て支援

いつかまた、みんなで思い切り遊べる日が来るように(コロナ禍前の子育て応援プログラムの一コマ)

さまざまな手段が活用されるようになった、子育て支援の情報発信

スマートフォンやカメラを構えて。ファミリーサポートセンター会員交流会「わが子を世界一可愛く撮れる超簡単カメラ講座」から

シングルマザーの交流・支援活動にて。マスク下は笑顔の参加者たち

 昨年以来、新型コロナウイルスの感染拡大による全国的な一斉休校、地域や学校行事の相次ぐ中止などの影響で、子どもたちはストレスを感じて生活をしてきた。それと同時に、多くの子育て中の親たちにとっても、外出の自粛や人との接触の回避が要請されたことで、さまざまな機会を失って孤立感を深めたり、悩みを抱え込みがちになってきた。
 この特集では、コロナ禍と言われる中でも実施されてきた子育て支援の事例を紹介し、今後どのような取り組みが必要とされるのかを探っていきたい。

支援の充実を目指す中でのコロナ禍の拡大

 未来を担う子どもたちの成長には親への支援も含む子育て環境の整備が不可欠だ。この認識から国は、県や市町村と連携して「保育施設や包括的な相談窓口の充実」「幼児教育・保育の無償化」「保育人材の確保」「育児休業取得の推進」などの総合的な対策を打ち出し、近年実行してきた。
 一方で内閣府の調査【図表1】からは、「子どもや子育てなどに温かい社会に向かっている」という実感が伴わないことも窺える。
 そこに追い打ちをかけるように、昨年来の新型コロナウイルスの感染拡大は、多くの子育て世帯に環境や行動の変化を迫り、孤立感の増大などをもたらした。こうした実情に対する県内の子育て支援の取り組み事例を紹介する。

県内の実践事例から

相談から見えた課題を活動プログラムに反映(神戸市中央区)

 社会福祉法人神戸真生塾が運営する子ども家庭支援センターロータリー子どもの家(以下、「センター」)は、児童福祉法の「児童家庭支援センター」として地域からの相談に応じ、児童相談所と連携した見守りなどに取り組む機関だ。日々、電話、家庭訪問、メールなどで相談に対応し、福祉と心理の専門職が連携して家庭の問題が深刻化する前の支援につなげている。
 久山啓センター長は、「親御さんたちも人に会う機会が減り、ストレスや孤立の深まりが気がかりなケースも多かった。また、初産のお母さんは仲間もつくれず、大変な年だった」とコロナ禍が子育て世帯に与えた影響を振り返る。また、コロナ禍では、生活リズムの乱れから子どもの不登校やゲーム依存などに関する相談も目立った。
 これらを踏まえ、昨春の一斉休校や緊急事態宣言下では、先行きが不透明な中で子育て世帯に安心を届けようとFacebookでの情報発信に力を入れた。
 センターでは、相談と情報発信にとどまらず、従前から地域の子育て家庭が気軽に参加できる多彩な「子育て応援プログラム」も実施。昨年はその多くが自粛を余儀なくされたが、母親同士が集う「子育て講座」には、直接会えなくてもつながりを維持できるようにとオンライン開催も取り入れた。
 また、コロナ禍で孤立や生活困窮などが懸念される世帯を訪問し、食料やお弁当を届ける「フードパスプロジェクト※1」にも地域の社会福祉法人や関係者と共に新たに取り組んだ。
 相談から見えてきた課題を踏まえ、従前の取り組みにさまざまな工夫を重ねたり、新たなプログラムの立ち上げに挑んだセンターの実践。今後も感染予防とのバランスを図りながら、相談対応との両輪での取り組みが続く。

※1:2020 年12 月号 P.7“ みんなでつくる ひょうごの福祉”で紹介

「子育て応援プログラム」のプレイルームの開放では、三密を避けるため、広い空間で遊べるように配慮した

多様な主体で進める地域の子育て支援(三木市)

 三木市社協が運営する育児ファミリーサポートセンター(以下、「センター」)は、子育てを応援したい人(協力会員)と応援してほしい人(依頼会員)が助け合う仕組みとして地域に根付いている。
 保育所への送迎や子どもの預かりなど、約530名の会員が互いに支え合うこの活動からは、複合的な課題を抱える家庭の存在も見えてきた。例えば、睡眠障害がある子どもを育てる母親自身が難病にかかったケースでは、社協、行政の障害部局、幼稚園が支援策の合同検討会を開催。母親の体調に配慮し、幼稚園の空き教室を利用した預かりを調整するなど、柔軟な取り組みにつなげてきた。このような連携から適切な支援につなげた例も多く、住民・社協・専門職・行政が一丸で包括的に支える重要性を確認してきた。
 また、センターでは、コロナ禍でも会員が安心して活動できるよう、協力会員の研修会では感染症予防について学び合い、会員交流会では、参加を自粛した人に交流会の様子を動画で限定配信する工夫も凝らした。
 センター以外にも、三木市では地域の子育て支援団体による活動も盛んだ。
 普段から地域の交流施設で子ども食堂を開催する「寺子屋おおきなき」は、昨年の一斉休校中も子育て世帯を応援しようと、会食型の子ども食堂を配食・持ち帰り型に変え、開催回数も増やして活動を継続した。休業や時間短縮営業を余儀なくされた飲食店に調理の協力を呼びかけたことで、今では以前に増して子ども食堂と地域の結び付きが強まっている。
 また、母親たちが自ら取材・編集した情報誌を発行する「かるがも編集局」では、18年間続いた紙媒体の情報発信を、昨年WEBに切り替えた。従来は身近な仲間づくりを目指した当事者目線の情報提供を目指してきたが、イベントの縮小など昨今の状況を踏まえて新たな情報発信を模索。助産師などの専門職、子育て支援に携わるさまざまな団体が書き手となったコラムを中心に据えた、交流を生み出すプラットホームへと衣替えした。
 このようにコロナ禍でもさまざまな主体が自ら考え、柔軟に活動を変化させている市内各地の取り組みは、地域の子育て支援の輪を広げ、当事者と地域住民の「エンパワメント※2」につながっている。

※2:エンパワメント 住民・市民が自ら考え、行動する力をつけること

一緒に食べるスタイルから配食・持ち帰り形式に切り替えて続けられた子ども食堂。訪れた親子たちも笑顔に

シングルマザー同士で分かち合い、地域とつながる(神戸市垂水区)

 NPO法人しんぐるまざあず・ふぉーらむ・関西は、シングルマザーと子どもたちが差別されることなく生き生きと暮らすことができるよう、平成18年から大阪・神戸などで活動している。このうち神戸ウエストは神戸市垂水区に拠点を置き、親子交流会、親子で調理し食事をしながら悩みを打ち明け合うおしゃべり会、シングルマザーに役立つ情報を提供するセミナーなどを7〜8名のスタッフで企画・実施している。
 さまざまな悩みを抱えて神戸ウエストを訪れる母親たちは、頼る先もなく、「私だけが…」という心境で扉をたたく。迎えるスタッフは、フラットな関係で受け止めながらサポートを始め、母親たちは、「私だけが悩んでいるのではない。この場所に出会えて良かった」と安堵する。
 継続的に神戸ウエストの活動に参加する母親たちは、似た境遇にある仲間との交流を通じて励まし合い、もう一度前を向く。自立へのステップアップを目指し、就職活動や資格取得など、各々が新しい一歩を踏み出している。
 昨年来のコロナ禍を振り返ると、母親たちは見通しがつかない日々への不安に苛まれてきた。楽しみにしてきた「親子交流会」などのイベントが実施できず、神戸ウエストの活動も停滞しかねない状況だったが、シングルマザー家庭に企業や団体から寄贈される食材・生活用品を届ける活動を新たに立ち上げた。単に物を送るのではなく、訪問して届けるスタイルは、孤立しがちな世帯への見守りにもなっている。また、神戸ウエストに集う親子とスタッフが調理した食事を近隣の高齢者に「おすそ分け」する活動もスタートさせ、近隣の高齢者との新たな交流も芽生えた。
 この他、これまで関わりの薄かった企業や団体も、コロナ禍で苦しむシングルマザーの実情と神戸ウエストの活動に関心を寄せ、広報や活動場所の提供などの協力も得られるようになった。
 地域には一人で悩むシングルマザーが数多く存在する。特に若年層の母子世帯には、就労・就学面の支援も行き渡りにくく、コロナの影響も色濃くなりがちだ。生活基盤を形成し、子育てしながら心豊かに暮らせるようにと活動を続ける神戸ウエスト。コロナ禍でも工夫しながら活動を続けてきたことで、スタッフたちも今後の活動に期待とささやかな自信を見せている。

孤立しないように、生活に困らないように。シングルマザーへ物資を届ける準備

事例から見える子育て支援のポイント

 子育て世帯を孤立させないという思いが伝わる各事例から、3つのポイントが見えてくる。
 1つ目は、「情報の提供と共有」である。インターネットで容易に情報を得られる時代でも、発信元が明確で当事者目線に立つ情報の価値は依然として高い。機関紙・Facebookでの発信、講座でのノウハウの提供は子育て世帯に安心を届ける取り組みだ。また、情報の提供に加え、交換する仕組みにも注目していきたいところだ。
 2つ目は、「悩みを受け止め、分かち合える場づくり」である。孤立しない地域づくりにはアクセスしやすい窓口に加え、悩みを持つ人同士が交流して思いを分かち合う「ピアサポート」が不可欠だ。また、コロナ禍ではオンライン上のつながりも進んだが、離れた所から集いに参加できる仕組みは、今後も必要とされ続けるだろう。
 最後は、「相談・活動場面での気付きと次の一歩」である。相談場面や支え合い活動の場面での当事者の声から気付くことが大切だ。そこから新たな取り組みの着想を得ることもある。また、気付きを支援につなげ、柔軟なスタンスで社会資源をつくることも求められている。
 今回、子育て支援の事例を紹介し、ポイントをまとめたが、これらは誰もが孤立せず支え合って暮らせる「地域共生社会」へのヒントでもある。
 冒頭で紹介したように、「子どもや子育てなどに優しい社会」に向かう実感は十分ではないかもしれないが、県内にはそれぞれに個性が輝く子育て支援の実践がある。これらの実践から学びながら、今、コロナ禍が地域にもたらす孤立やさまざまな困難に目を向けること。そして支援ネットワークとの協働やつながり合える場づくりを進めることは、子育て支援に限らず、あらゆる分野で求められる喫緊の取り組み課題といえるだろう。

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