ターミナルケア ~人生の最期を支える福祉現場の実践~

地域包括支援センターが主催する認知症カフェで、利用者の家族や地域住民がターミナルケアなどについて学ぶ「人生会議」の様子
(社会福祉法人 神戸福生会 提供)
手を握りながら声を掛けて思いを確認
(社会福祉法人 神戸福生会 提供)
ケアマネジャーなどの専門職が、看取りやターミナルケアなどを学ぶ機会が増えています
厚生労働省が作成している「人生会議」の広報資料

 近年、在宅や介護施設でのターミナルケアも広がり、どこで、どんなふうに人生の最期を迎えるかの選択肢も広がってきています。
 この特集では、人生に寄り添い、最期までよりよく生きることを支えるために取り組まれる、ターミナルケアの実践を紹介します。

住み慣れた場所で最期を迎えたい ~統計から見えること~

 厚生労働省の「人生の最終段階における医療・ケアに関する意識調査(令和4年)」によると、病気で治る見込がなく1年以内に死に至ると仮定した場合、半数に近い約44%が「人生の最期を自宅で過ごしたい」と希望しています。一方で、「人口動態統計」【図表1】によると、実際に人生の最期を迎える場所は病院・診療所が67%と最多であり、自宅は17%に留まります。今から20年ほど前は、病院・診療所で亡くなる人の割合が8割を超えていましたが、近年は病院で亡くなる人の割合は減少し、住み慣れた自宅や介護施設でターミナルケア(終末期医療)を受けながら亡くなる人の割合が増加しています。
 かつて人の死は、病院内のできごとと捉えられがちでした。しかし、急速な高齢化で「多死社会」ともいわれる中、自宅や介護施設など、暮らしの場で看取られる人の割合が増えているという近年の動向が見えてきます。

【図表1】死亡場所の推移(厚生労働省:人口動態統計  令和3年から)
 

看取りのエピソードから

 ここからは在宅や介護施設で終末期を迎えた人のエピソードと、関わった支援者のインタビューを紹介します。

 訪問看護などを利用し、在宅でターミナルケアを受けたAさんの娘さんに伺いました

■Aさんのエピソード

 10か月に及ぶ闘病の末、昨年97歳で息を引き取った母は、ホスピス(苦痛を和らげる治療を行う施設)に入院するまでの約8か月間、在宅でターミナル期を過ごしました。
 記憶の中で休みなく働いていた母。80代になってもパートや奉仕活動に熱心で、病気で要介護4になっても、私に迷惑をかけまいと自分でお手洗いに行く気丈な人でした。そんな母のため、食事の準備や病院の付添などをしていましたが、やはり自宅での入浴が難しく、背中を拭くのが精一杯でした。文句ひとつ言わない母は、痛みも我慢していたと思います。今思えば、もっと早く誰かに相談すれば良かったのですが、当初は何もわからず、同時期に入院していた夫のことも気掛かりでした。
 そんな中、地域包括支援センターから繋いでいただいた訪問看護ステーションにお世話になることになりました。薬が飲めているか見守っていただいたり、頭や身体を洗っていただいたりとありがたいことばかりでしたが、人と話すのが好きな母は看護師さんが来ること自体をとても楽しみにしていました。
 自宅での転倒を機に、最終的に母は自ら入院を決断しましたが、お世話になった訪問看護師さんがホスピスにお見舞いに来てくれた際、「家に帰りたいな。ここには来てくれへんの」と弱音を漏らしたそうです。私にはその素振りも見せない母でしたが、娘に言えない本音もあったのだと思います。そんな複雑な気持ちも含め、私たちに寄り添ってくれた専門職の方々に支えられ、安心して最期を過ごすことができ感謝の気持ちでいっぱいです。在宅・病院生活を通して素敵な出会いに恵まれ、母は大往生だったと思います。

■Aさんのケアに携わった支援者
  看護師・主任介護支援専門員 鶴本 和香 さん

 私自身、在宅で父を看取った経験があります。「孫全員に会えるまで」と期限を決め、医師に父への点滴や酸素の吸入をお願いした際、「ご家族さんが思うとおりにさせてもらいます」という医師の言葉に救われました。また、疲れが出始めた時「朝だけでもヘルパーさんをお願いしませんか」と提案をくれたケアマネジャーの声掛けが、本当にありがたかったことを覚えています。
 Aさんへの支援に限らず、その人・家族が必要としている支援は、必ずしも明確な言葉で伝わってくるとは限らないことを、私たち専門職は自覚する必要があります。だからこそ本人・家族の話に耳を傾け、思いと背景を知り、寄り添いながら丁寧にアセスメント(情報把握や分析)することを何より大切にしています。また、がん末期の看取りなどでは、病状の変化に家族の気持ちが追いつかず、介護に疲弊することがあります。そんな時は、支援者として状況を日単位で確認しながら対応しています。
 住み慣れた自宅・地域で最期を迎えたいと願う時、地域包括支援センターやケアマネジャーなど相談できる先があることを、多くの方に知っていただきたいと思います。そして、一人一人が自身の望む人生の最期を迎えられるような地域社会になればと思います。

 福祉施設(高齢者ケアセンターながた)で看取りに携わったスタッフにBさん・Cさんのエピソードを伺いました

■Bさんのエピソード

 元々お酒が好きだったBさん。職員がアルコール消毒をしている様子を見て、「これが飲めたらなあ!」と冗談でおっしゃっていました。
 ターミナル期に入り、言葉数が少なくなってきたころ、「お酒が飲みたい」と発言があり、銘柄を伺うと目を閉じてうーんと考えられた末、「大関」との返答がありました。「一口でも味わわせてあげたい」と看護師から発信があり、相談員からご家族に相談しました。ご家族は、「ウイスキーにこだわってたけど、日本酒が一番好きだったのかな」と懐かしく思い出されながら、父の望むこと、喜ぶことをしてほしいと対応に同意されました。看護師がお酒をBさんの口に含ませながら、「乾杯」と声を掛けると、目を細め何度も「ウンウン」とうなずかれました。

最期に日本酒“大関”が飲みたい

■Cさんのエピソード

 人と関わることが大好きなCさんは、施設が運営する認知症カフェに参加するのを楽しみにしていました。気づけば認知症カフェでも人気者。そんなCさんは、私たちの施設が在る地元の老人クラブのイベント「ファッションショー」にスカウトされ、来場者の声援の中、100歳でランウェイデビューを果たしました。
 その後、Cさんは最期の時が近づいても、日々変わらず「ありがとう」と職員に感謝を伝えてくれました。翌年のファッションショーの際、Cさんが亡くなったことを知った地域の皆さんは涙ぐまれ、「Cさんの最期は、穏やかやったか」と声を掛けてくださる方が何人もおられました。「穏やかやったなら良かった。自分は施設には入りたくないと思ってたけど、最後困ったらあんたのとこに行ったらええな」。そんな声を掛けてくださる方もいました。
 Cさんが繋いでくれた私たちの施設と地域とのご縁は、在宅生活で困った際に、私たち施設がセーフティネットになることを知っていただくきっかけになりました。

100歳で見事なランウェイデビュー

■Bさん・Cさんのケアに携わった支援者
  高齢者ケアセンターながた サービス管理次長 山田 素美代 さん

 ターミナル期には緊急時の対応を職員で共有し、どのスタッフも適切に対応できる体制を整えています。そして、「いつでも気が変わったら教えてください」と伝え、気持ちの揺らぎにも最期まで寄り添います。
 Bさんの事例で、ご家族がお酒の好みを意外に思われたように、普段は見せない親の素顔や気持ちが見えることもあります。施設での看取りを希望された本人・ご家族が、施設を選んだことを後悔されることがないよう、お元気な時期からお話を重ね、多職種が支える施設でなければできない支援を通して、その人らしい最期に寄り添います。Cさんの事例では、認知症カフェを軸として地域の輪が広がりました。それは、“100歳の女性が施設でこういう生き方をしている”という姿を、Cさんが地域の皆さんに実際に見せてくれたからだと思います。
 私たちとしてもターミナルケアの経験を積み重ねるとともに、在宅生活で困った時に相談できる場所として、施設が少しでも地域の中で身近な存在になれば嬉しいです。

人生の最期を支えるために

紹介したエピソードから、人生の最期を支えるために大切なことをまとめます。
 その一つ目は、「多職種連携・チームによるケア」です。看取りが近づく場面では、治療ではなく、痛みの緩和など穏やかに暮らすための環境整備に重点が移ります。そのためにも、医師や看護師、ケアマネジャーや介護職員などが、本人・家族の情報や抱いている思いを共有し、連携してチームでケアにあたることが不可欠です。
 二つ目が、「最期の瞬間まで本人の意思を尊重すること」です。病気の進行で意思表示が難しくても、24時間の介護が必要な状態でも、これまでその人が生きた歴史や好きなものが確かにあるはずです。大切にしたいのは、生活史やちょっとした仕草から意思を汲み取り、時には思いを代弁しながら、意思決定を支えることです。
 最後に三つ目が「医療・ケアをめぐる対話と情報提供」です。元気なうちから死について口にするのは「まだ先のこと」と誰もが避けがちです。しかし、その人らしい生き方の延長にその人らしい最期があると捉えることもできます。たとえ死というものを正面から話題にせずとも、日常のコミュニケーションや対話を重ね、専門職がその人らしい最期に寄り添うためのヒントを引き出すことも大切になります。
 また情報提供としては、例えば、地域包括支援センターなどでは、自身が望む医療やケアについて前もって考え、家族や専門職と共有する「人生会議」の普及に努めています。専門職に限らず、民生委員・児童委員など地域で活動する福祉関係者には、人生会議の周知に協力したり、介護に悩む人に相談窓口の情報を提供する役割も期待されています。

 ターミナルケアをテーマに、看取りのエピソードや支援の実際を紹介しました。この特集を、幅広い専門職と福祉関係者が、人生の最終段階を支えるためにできることを考えるきっかけにしていただければと思います。

「人生会議」については、厚生労働省のホームページを参照ください
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_02783.html

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