2023年1-2月号
災害ボランテイアセンター設置・運営訓練でのオリエンテーションの様子(明石市社協提供)
訓練では、段ボールベッドの組み立ても体験(明石市社協提供)
災害の発生後、迅速に開かれた市町社協オンライン情報共有会議の様子(静岡県社協提供)
災害ボランテイアセンターでは、タブレットを活用して今後の支援について検討(静岡県社協提供)
新型コロナウイルス感染症が蔓延する中で災害が発生した場合、被災した人々への支援をどう展開すればよいのか。感染症の発生から三年が経つ現在も、難しい課題であり、災害ボランティアにも戸惑いが広がっています。
このようなことから今号では、ウィズコロナ時代における災害ボランティアを含む災害支援活動について、現状や課題など直近の事例も参考に考えます。
阪神・淡路大震災以降、多くの災害を経験し社会に定着してきた災害ボランティア活動が、新型コロナウイルス感染拡大により大きな影響を受けています。このような中、行政、社協、NPOなどの支援機関・団体は、被災者への支援をどのように行えばよいのか、明確な解答は見出せていません。被災して困っている人がいることは理解しつつも、多くの人が災害ボランティア活動に赴けば、新型コロナウイルスの感染を拡大させるリスクも高まるため、被災地での活動を慎むべきという議論があります。
令和2年からのコロナ禍以降、全国の被災地では、災害ボランティアが全国から駆けつけられないという事態が数多く発生しています。もちろん、遠隔地からは物資などの支援が行われており、インターネットを通じた活動も展開されています。しかし、被災地で活動する災害ボランティアの数が圧倒的に少なく、復旧・復興への大きな遅れの原因ともなっているのです。
この状況を踏まえ、ここからは県内外から二つの事例を紹介し、災害支援活動について考えます。
南海トラフ地震での津波被害が想定される明石市において、発災時、災害ボランティアセンター(以下、「災害VC」)を運営する明石市社会福祉協議会では、令和4年3月に「災害ボランティアセンター運営マニュアル」を改訂し、新型コロナウイルスなどの感染症対策を盛り込みました。
マニュアルは、被災者がボランティア活動を受け入れる際の不安を取り除くことにも重点が置かれ、活動者の検温や消毒の実施、密の回避を念頭に相談しながら活動を進めることなど、災害VCでの感染予防対策や、不測の事態が発生した場合には行政(保健所)と連携し、適切に対応することが明記されています。コロナ禍では、感染を拡大させることを懸念してボランティアが活動をためらったり、被災者もボランティアの依頼をためらうことが想定されます。感染症対策に配慮した実効性のある仕組みづくりを進めていることを、市社協としてもまずは地域住民に知ってもらい、災害時の不安を少しでも取り除きたいと考えています。
また、同年11月には、市、市社協、障害当事者、各自治会・町内会より、200名を超える参加のもと、市主催で災害時の避難所開設・運営訓練を実施し、女性・障害者・高齢者・乳幼児などさまざまな方への配慮を含めた地域防災力の向上を図りました。訓練では被災者が避難所に到着してから居住区に割り当てられるまでの流れや段ボールベッドの組み立てを体験し、非常食の試食、障害のある方との避難所での生活を体験するプログラムを通じて、被災者が安心して快適に避難所で過ごすために「避難所運営で何をすべきか」を多くの住民と考え、共有する良い機会となりました。
もちろん、今後検討しなければならない課題もあります。例えば、災害VCの設置場所は、3密を回避するため広い場所が必要ですが、ボランティアの利便性などを考えると、市内でも場所が限られます。避難所づくりでも、感染症対策のため収容できる人数も従前よりも限られます。これらの課題解決には、災害が起こる前に、行政や関係機関などと調整しておく必要があり、検討が急がれます。
市社協では今後、いつ発生するかわからない大規模災害に備えて、平時からの情報共有を図り、災害時に緊密な連携のもと被害者支援活動ができるようにしたいと考えています。どのような状況下でも、被災者を支援する必要性に変わりはありません。支援内容や方法を工夫しながら、被災者の目線に立った支援が展開されるよう、これからも取り組んでいきます。
令和4年9月の台風15号では、静岡県内全域は猛烈な豪雨に襲われ、河川氾濫、土砂災害、大規模断水など大きな被害を受けました。床上浸水は県全域で5,705戸、全壊・半壊家屋が多数発生し、県下35市町のうち、23市町に災害救助法が適用される大きな被害を受けました。
静岡県社会福祉協議会では、この前年(令和3年)に発生した静岡県東部豪雨災害での災害対応の経験を生かし、県内の被害状況の把握、市・町社協の災害VCの立ち上げ支援など、コロナ禍でも円滑に初動体制を確立することができました。
また、感染症拡大を防ぐ観点から人との接触をできる限り避けるため、前年の豪雨災害の経験も生かし︑予めICTを活用して災害VCの運営改善を図りました。今回の台風15号では、ICT導入がさまざまな成果を上げています【 図表1 】 。
こうした改善は、業務の効率化、運営スタッフの負担軽減、情報共有の強化などの効果をもたらすとともに、改善で生み出された時間を、被災地に赴いて状況を直接把握する時間に充てたり、被災地の市町社協に寄り添った支援ができるようになりました。
また、今回は多数の住宅が浸水被害に見舞われたため、床下の乾燥や消毒など、専門知識を要する特殊な技術支援が必要となりました。そこで、県社協を中心に関係団体と協議、調整し、県外からの技術系NPO団体などを受け入れることとし、団体の受付や活動場所の調整などは、前年度の豪雨災害で連携体制を構築したNGO団体「災害NGO結(ゆい)」に任せることにしました。
これら一連の動きを、県社協福祉企画部の西村慎言部長は、「コロナ禍であっても、基本は人と人とのつながりです。多くの人と知己を持ち、各機関・団体の職員という立場を越えた信頼関係を築き、より良い支援を行うことが非常に重要です」と振り返ります。また、「直接、顔を合わせて話す機会は減りましたが、災害VCの体制整備に向けて、人とのつながりや、被災者(被災地)主体という災害VCの原点を忘れず、ICTなども活用しながら平時から備えることが重要です」と、ウィズコロナでの災害支援活動について話してくださいました。
ここまでの事例で共通することの一つ目は、災害VC運営マニュアルの改訂やICTの活用など、ウィズコロナを念頭に、環境変化に柔軟に対応していることです。
また、被災者(被災地)主体で、被災者から寄せられる困りごとに適切かつ効果的な支援を行い、速やかに復旧・復興を進めるために、地域内で行政、社協、NPOなどの関係団体の連携を普段から重視している点も、共通点として見えてきます。
連携の重要性を表すように、ここ数年、被災地では、行政、社協、災害支援にあたるNPOを中心に被災者支援のヌケ・ムラ・モレなどを無くすための「情報共有会議」を設けることが定着してきています。例えば、令和2年7月の熊本豪雨では、熊本市のNPO「くまもと災害ボランティア団体ネットワーク」(以下、「KVOAD」)が開く情報共有会議「火の国会議」が、災害支援関係者の間で改めて注目されました。同会議は、平成28年の熊本地震後に始まり、物資の提供や支援活動に関する情報を各団体が持ち寄り、被災者のニーズとつなぎました。震災から4年を経ても定期的に会合を重ねていたことが、豪雨災害への備えになったのです。今後、このような情報共有会議が各地で開かれ、平時から協力関係を築くことが求められます。
また、コロナ禍では、これまで通り全国からボランティアや支援団体を受け入れるべきかという新たな課題に直面しました。これには難しい判断が伴いますが、熊本豪雨ではKVOADが調整し、災害支援の全国団体※1が示した指針も参考に県内に限定する方針への協力を広く呼びかけました。一方で、土砂の撤去や家屋修理など、不足する専門的な要員についてもKVOADが関わり、一部の被災自治体が県外の団体を受け入れるなど、その調整や支援に努めました。
このように、状況に応じた細やかな支援の背景には、各機関・団体の連携があります。また、ボランティアの移動制限で新型コロナの感染は防げても、水害などの場合、泥出しの遅れが別の感染症を招くなど、被災者の苦しみを増長させる可能性もあります。コロナ禍では、新型コロナのリスクを過大にも過少にも評価せず、バランスを見極めつつも、被災者の命を守り、助けることが何より優先されるべきです。そして、被災者に寄り添った支援を展開するため、日頃から顔の見える関係や、担当者同士の生きたつながりをつくっておくことが求められます。
※1 全社協及び認定NPO法人全国災害ボランティア支援団体ネットワーク(JVOAD)
災害支援活動は、災害ボランティアだけでは担えません。災害時にはボランティアの力を借りつつも、元来より地域にある共助が機能することが復興への力になります。
特にコロナ禍では、全国各地からボランティアが被災地に入れませんでしたが、そのことが、普段は地域活動にあまり関わらなかった人たちが立ち上がる契機になるなど、住民間の支え合いを促したという見方もできます。しかし、他府県からの力を借りず、被災地に限定した支え合いだけでは、長期化する片付けなどで被災者は疲弊し、復興を諦めかねないという点も決して忘れてはなりません。
コロナ禍を理由に被災者支援を止めてはなりません。災害ボランティアが安心して活動し、被災者も安心して活動を受け入れられる体制を、ウィズコロナを見据えて関係団体の連携で整えることが必要です。また、関係団体間のつながりと同様に、住民同士も普段から地域で顔の見える関係を築くことも大切です。住民が積極的に災害について学んだり、話し合える場を地域につくることも、平時からの確かな備えとなり、災害に強いまちづくりにつながっていきます。