【特集】利用者に寄り添う質の高いケアを目指して ~高齢者施設における介護ロボット・ICTの活用~

笑顔で過ごす高齢者と介護職員

移乗用の電動介護リフトを使用する様子

コミュニケーションロボット

スタンディングリフトによる移乗支援(排泄ケアの場面)

上の2点:特別養護老人ホーム常寿園
下の2点:特別養護老人ホーム万寿の家

 近年、介護現場では“利用者の自立支援”や“介護者の負担の軽減”に役立つ介護ロボットやICT ※1の活用が進みつつあります。
 本特集では、高齢者施設での介護ロボット・ICTの活用事例やインタビューを交えて、介護現場の生産性向上や働きやすい職場環境づくりと、目指すべき利用者の自立支援、ケアの質の向上について考えます。

※1 ICT:「Information and Communication Technology」の略称。「情報通信技術」と訳されます。

介護ロボットとICT導入の動向

2040年を見据えた介護現場の革新

 我が国では、2025年に団塊の世代が75歳以上となり、2040年には高齢化率が35.3%とピークを迎えます。また、少子化の進行で15~64歳の生産年齢人口は2025年の7170万人から2040年には5978万人に減る見通しです。
 増大する介護ニーズに対し、サービス提供を担う人材の確保はもちろん、現場の生産性の向上は極めて重要です。厚生労働省は、介護人材の確保を引き続き目指しつつ、2040年を見据えた介護ロボットやICTの活用を促し、介護現場の革新を進めています。

介護ロボットとその導入状況

 介護現場で導入が進む介護ロボットとは、情報の感知、判断、動作といった「ロボット技術が応用され、利用者の自立支援や介護者の負担の軽減に役立つ介護機器」のことを言います。
 具体的には、排泄、入浴、食事などの場面を想定した「移乗支援」「移動支援」「排泄支援」「見守り・コミュニケーション」、「入浴支援」「介護業務支援」の6分野で開発が進み、現場に導入され始めています(図表1)。
 このうち「見守り・コミュニケーション」に関連する見守りセンサーや「介護業務支援」の介護記録システムなどではICTが応用されています。
 また、(公財)介護労働安定センターが実施した「令和2年度介護労働実態調査」によると、入所施設での介護ロボットの導入は、「見守り・コミュニケーション」が16.6%と最も多く、次いで「入浴支援」5.9%、「移乗介助(装着型)」5.3%となっており、全体としては少ないながらも、各地で徐々にその導入が進んでいます。

【図表1】介護ロボット(一例)
(厚生労働省・経済産業省資料より抜粋)

移乗支援

装着型パワーアシスト

非装着型離床アシスト

入浴支援

入浴アシストキャリー

見守り

見守りセンサー

介護ロボット・ICT導入の目的

 介護現場の生産性を高める上で大切なのは、介護ロボットやICTの導入は「手段」で、業務改善や効率化で介護の質を向上させることこそが「目的」だという視点です。例えば、介護ロボットを活用して生み出した時間を、他のケアや利用者とのコミュニケーションに充てることも期待できます。また、介護ロボットやICTを上手く活用し、働きやすい職場づくりを進め、介護人材の定着・確保へつなげることも大切です。
 この好循環で、尊厳を保持して活動・参加の機会の確保しながら、利用者のADL(日常生活動作)やQOL(生活の質)の維持・向上といった「介護サービスの質の向上」を目指すことが介護ロボット・ICT導入の本質と言えます(図表2)。

【図表2】介護サービスにおける業務改善の捉え方

厚生労働省「介護サービス事業(施設サービス分)における生産性向上に資するガイドライン」の図を一部加工

介護現場での介護ロボット・ICT活用事例

社会福祉法人常寿(じょうじゅ)会特別養護老人ホーム常寿園(高砂市)

 常寿園では、約7年前から介護ロボット・ICTを導入し、適切なケアの提供と職員の業務負担の軽減に取り組んでいます。導入の効果や今後の方向性について、理事で施設長の長谷川 均氏に、取り組みを紹介して頂きました。

①移乗介助「床走行式電動介護リフト」

 地域密着型特別養護老人ホームでは、高齢者が小規模なユニット(グループ)で生活しています。そのため、ユニットの担当職員が一人でケアをする場面が多く、より安全なケアの提供と負担軽減を図ろうと考えました。介護リフトを導入した平成26年以降は抱え上げるケアが減り、職員の心身の負担感を軽減できました。また、利用者の皮膚剥離など移乗に伴うケガのリスクも軽減でき、介護の質も高まっています。

②見守り「眠りSCAN」と「低床電動ベッド」

 平成30年に2つの特養(地域密着型と広域型)の全97床に導入した「眠りSCAN」は、ベッドのマットレスの下に敷いて、体動(寝返り、呼吸、心拍など)を検出し、睡眠状態を測る見守り支援ロボットです。センサーで睡眠、覚醒、起きあがり、離床などがリアルタイムに分かり、状況に応じてアラームが鳴るため、職員はタブレットやスマートフォンなどで迅速に状態を確認できます。
 これにより、夜勤に入る職員の精神的な負担も軽減でき、また、巡回で利用者の安眠を妨げることも避けられ、利用者の良質な睡眠の確保にもつながりました。
 利用者一人一人の睡眠・覚醒リズムや心拍などのデータに基づき、日中活動を充実させたり、体調変化を早期に把握して重症化を防ぐなど、より良いケアプランとそれに基づく質の高いケアを提供したいです。
 また、眠りSCANの導入と同時に「低床電動ベッド」を採用しました。ケアの場面に応じて自在に高さを調整でき、利用者の転倒・転落のリスクを減らせる上、利用者を抱き上げて介護する必要もなくなり、腰痛予防に効果を発揮しました。なお、操作するリモコンの画面には、背もたれの角度やベッドの高さが数値で表示され、個々の職員の感覚に頼らない、統一化されたケアも実現しています。

職員が携帯するスマートフォンと連動する「眠りSCAN」

③介護業務支援「介護記録ソフト」

 ICTを活用した介護記録ソフトを導入する以前は、職員が手書きのメモから一覧表へ、さらに利用者のケース記録へと二重三重に記録を転記していました。さらに看護日誌や介護日誌の記録の重複も生じていました。
 これを改善しようとソフトを導入したところ、一度の入力で情報が共有され、重複のムダも解消。居室や食堂など、利用者のそばでタブレット端末から入力ができるため、記録忘れも減り、記録が瞬時に共有できるようになりました。その他、コロナ禍ではICTを活用したオンライン面談を可能にしたり、SNSで利用者や施設の行事の様子を家族に配信しています。
 今後は、複数の職員の重複した動きを解消したり、眠りSCANとの連動性を高めるために、インカムを導入してより良いチームケアを目指そうと考えています。

コミュニケーションを取りながら、タブレット端末で利用者情報を入力する職員

テクノロジーを活用した介護現場の近未来

 介護ロボット・ICTの活用で、今後、介護現場はどのように変化するのか、県内で最先端の実践に取り組む県社会福祉事業団にインタビューしました。

社会福祉法人兵庫県社会福祉事業団特別養護老人ホーム万寿の家(神戸市北区)
次長兼支援課 課長/作業療法士 野上 雅子氏

介護ロボットと高齢者の自立支援

 高齢者が本来持っている心身の能力を発揮できる「自立支援」を目指すこと。これが介護の重要な視点です。介護ロボットは、一般の福祉用具や施設環境の整備と組み合わせて自立支援を目指すケアの選択肢を増やし、効果を発揮します。また、介護場面でのケガや事故も確実に減らせます。
 将来を見据えると、利用者の状態を適切に把握し、介護ロボットを安全かつ適切に扱える人材の育成が大切です。当施設では、企業や行政、大学などと研究・研修を進める「福祉のまちづくり研究所」と連携し、指導的役割を担う「ロボットケアマスター」を育成しています。

介護現場における科学的データの活用

 今年4月から、厚生労働省が「LIFE」(科学的介護情報システム)の運用を始めました。これは、施設から厚生労働省へ介護サービスや利用者の状態などのデータを提出し、科学的に分析されたフィードバックを受けて、高齢者の自立支援と重度化防止につなげる取り組みです。
 今後は、「LIFE」との連動を視野に入れた介護ロボット・ICTの活用が求められるでしょう。また、科学的・客観的なデータにより、例えば褥瘡の改善やオムツ外しなど、個々の利用者に合わせたケアを「計画→実行→評価→改善」のサイクルで進めることが介護現場に期待されます。

介護職員のやりがいの創出とイメージの転換

 介護ロボットの活用やノーリフティングケア(持ち上げない介護)の推進で、身体的負担は確実に減少します。腰痛を原因とする離職も減り、高齢になっても介護業務に従事することが可能となるでしょう。今後は、多様な世代の職員がいきいきと働く現場になると思います。
 また、業務改善が進むと利用者と向き合う時間が増えます。コミュニケーションをとり信頼関係を構築し、レクリエーションや外出支援などに時間を充てられ、利用者の暮らしの質も高まります。業務改善・効率化で職員を少なくするのではなく、適切な配置で介護の質を高め、職員がやりがいをもって働き続けられる職場をつくることが重要です。
 専門性を発揮してケアを提供する介護職員の姿は魅力的です。介護ロボット・ICTの活用で、介護職のイメージの転換が図られ、介護の仕事の魅力も高まり、「テクノロジーを活用したケアをしてみたい」「クリエイティブにケアの仕事をしたい」という多様な人材の確保につながることを期待しています。

介護ロボット・ICTのさらなる活用に向けて

 高齢者の自立支援とケアの質の向上に向けて、介護ロボット・ICTのテクノロジーが有効に活用される時代が到来しています。県では、第8期介護保険事業支援計画で、①モデル施設の育成、②介護ロボット・ICTの導入助成、③介護ロボット等を活用する介護職員の育成支援などに取り組むことを明記し、介護現場の革新を後押ししています。
 テクノロジーの発展とともに変革期にある介護の現場。より質の高いケアを目指し、新たに開発され、日々進歩する介護ロボット・ICTの動向を把握しながら、安全かつ適切に扱う技術を高めようと、たゆまぬ努力が続いています。

ケアの技術を高める職員研修(特別養護老人ホーム万寿の家)

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